Thoughts and Notes from CA

アメリカ西海岸の片隅から、所々の雑感、日々のあれこれ、読んだ本の感想を綴るブログ。

「Yahoo! "del.icio.us"買収」にみる新しいようで古い競争の構図

ヤフー、「del.icio.us」を買収
"Flickr"に続いて"del.icio.us"もYahoo!に買収されてしまった。夏にSkypeがe-Bayに買収されたこともセットで考えると、強靭な足腰でネットバブル崩壊を勝ち抜き、現在賞賛の的となっている「勝ち組ネット企業」がその資本力が武器に、ネットバブル崩壊後に瓦礫の中からにょきにょきと新しい芽を育み成長を続けてきた「バブル以降の新興ネット企業」を買収するというのが最近の流れとみることができる。

何か似たような話を読んだことがあるなと思い、以前読んだ梅田さんの本を読み返して見たところ、下記の記述を発見した。

シリコンバレーは私をどう変えたか―起業の聖地での知的格闘記

シリコンバレーは私をどう変えたか―起業の聖地での知的格闘記

米国では、ネット新時代の到来とともに、九〇年代半ばから、大企業対ベンチャーの覇権争いが熾烈化した。攻め込まれた大企業の経営者凡庸であったなら、現在のIT産業の派遣構造は一変し、ベンチャー群の中から新しい覇者が生まれていたと想像されるが、現実にはそうはならなかった。戦いを挑まれた大企業の経営者たちがベンチャー企業の創業者たちに勝るとも劣らない「激しい性格」を持っていたため、「何でもありの大競争」が始まってしまってからである。
・・・<中略>そんな「何でもありの大競争」の中で、ひとつ斬新な経営手法が、米国大企業の「新しい常識」として根付くようになった。それは、「大企業がベンチャーを買収してしまう」というコロンブスの卵のような手法だが、競争相手を直接取り込んでしまうわけで、これ以上ないほどの効果を発揮した
・・・<中略>そしていつしかベンチャーは、大企業に買収されることを夢見て創業するようになった。

引用もあわせて考えると最近の流れは、90年代にオラクル、シスコ、マクロソフトなどのような大企業がとった経営手法をYahoo!やe-Bayのような「勝ち組ネット企業」が採用し、「新興ネット企業」を取り込んでいると言いかえることができる。
ただ、技術や人材を買収の目的としていることはおそらく90年代とそう変わらないと思われるが、Playerの違い以外にもいくつか相違点があるように思う。ぱっと思いつくベースだと
(1)買収される側の企業が相当数のユーザを既に囲い込んでおり、市場でそれなりに存在感がある点
(2)買収する側の企業がインターネット事業の豊富な経営ノウハウを持っている点

の2つがあげられる。"Flickr"と"del.icio.us"に限定すれば、ユーザを囲い込んでいるだけではなく、そのユーザによって蓄積されたデータを保持しているという点も見逃せず、今後はその点が高値で勝ち組企業に買収されるためには、最も重要な要素になるように思われる。

話題という点では次はどこがどこに買収されるのかというようなことで盛り上がりそうな気はするが、個人的には巡航高度に達したこれらの企業が「勝ち組ネット企業」のもとでうまく継続的に経営され、さらに花開くことができるのか*1というこのスキームの有効性のほうが気になる。今後その点を注目していきたい。

*1:
ハッカーと画家 コンピュータ時代の創造者たち
企業を継続して経営してゆくことは、育てることとは違う。巡航高度に達したら大企業に後は任せるのがよいだろう
ハッカーと画家』〜第6章 P.109〜

Creative Commons License
本ブログの本文は、 クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(表示 - 非営利 - 継承)の下でライセンスされています。
ブログ本文以外に含まれる著作物(引用部、画像、動画、コメントなど)は、それらの著作権保持者に帰属します。