Thoughts and Notes from CA

アメリカ西海岸の片隅から、所々の雑感、日々のあれこれ、読んだ本の感想を綴るブログ。

無邪気なGoogle礼賛を超えて

"グーグルが起こす第二の革命"はかなり読み応えのある良エントリーだった。

  • Googleのマネジメントシステムの特徴は、資源配分を経営者による階層構造の定義によってトップダウンでするのではなく、現場に権限委譲をし、マーケットメカニズムによって最適化する点にある
  • マーケットメカニズムを有効に機能させるために、意思決定者たる市場参加者(Googleの社員全員)に必要な情報を開示し、開示させている
  • 一流社員同士は自分の意思に基づいて有機的につながり合い、ぶら下がり社員を自分のプロジェクトから排除し、距離をおくことが容易になっている

上記のようなマネージメントシステムを通して、一流社員の走る道を舗装し、ある程度のタイヤを削減している点は理解でき、評価もできる。ただ、"グーグルが起こす第二の革命"のブックマークコメントの過度にオプティミスティックな反応を見るとこういうタイトルのエントリーを書かずにはいられない。Google自身、実際のところは「役職と所属を無くして、ブログとWikiと掲示板のみで会社を経営」しているわけではないし、これで会社が成り立つとは思えない。また、その手法自身が「タイヤの削減」に寄与することは理解できるが、「タイヤの消滅」を達成するとはとても思えない。無邪気なGoogle礼賛を超えて、より本質に近づくために、少し思うところを書いてみたい。

何を分散処理し、何を中央集権処理するのか

Googleの経営手法が我々に突きつける課題は、「今経営者が囲い込んでいる情報を、如何に社員に公開するか」ということではない。むしろ、リアルタイムに詳細な情報を社員同士が共有できることをテクノロジーが可能にしたことを受けて、「組織のパフォーマンスを最大にするために、分散処理と中央集権処理の間の線を如何にひき直すか」ということこそが経営者が最も頭を悩ますべきポイントだ。

フューチャー・オブ・ワーク (Harvard business school press)

フューチャー・オブ・ワーク (Harvard business school press)

・・・<中略>、情報伝達コストが低下しつづけることは、分散化の機会がますます増えることを意味する。情報伝達の経済性と意思決定における根本的変化は、これからの長い年月、経済や、企業という企業、産業という産業に影響を与えつづけるのである。
フューチャー・オブ・ワーク』 〜選択の時〜 P.31

テクノロジーが可能にするのはあくまで分散化の機会の増加であって、分散化の中に全ての答えがあるわけではない。大事なのは技術的な制約がなくなった経営環境で、実際にどこまで分散化するのが最適なのかをその企業のおかれた状況を考慮しながら正しく定義し、実行に移すことだ。
YouTubeの買収計画は「ブログとWikiと掲示板」からでてきたかもしれないが、YouTubeの買収価格が「ブログとWikiと掲示板」で決められたとはとても思えない(あくまで推測ではあるが)。Googleの中だって、未だに普通に中央集権処理は存在するのだ。Googleを中央処理をなくした分散処理機構とみると本質を見誤る。我々が本当にGoogleから学ぶべきは、最先端のテクノロジーと分散処理をするに十分なタレントをそろえたGoogleでさえ、どのようなことは未だに集中処理しているのか、そしてその理由は何故なのかという点ではないだろうか。

業績不調の時もGoogleの経営システムは本当に機能するのか

業績が右肩上がり絶好調の中では、経営の仕組みの問題点はあまり指摘されない。その優れた点のみが強調され、その仕組みが永続的に続くかのように賞賛される。ただ、経営の仕組やその会社の強さが本当に試されるのは、業績に下降傾向に陥った時だ
下降傾向に入った業績をV字カーブにもっていくのは容易ではない。特にそれなりに利益が上がっている大組織では、業績不調の真因をとらえ、それに真正面から取り組もうという引力は残念ながら働かず、「優秀な人間は他にもいるから、苦しい今の状態はあまり動かず、他の人に任しておこう」、とか「他に勝ち馬企業にあるならそちらに転職をしよう」という引力がかなり強く働く傾向にある。いざ、不調に陥った際に、会社を盛り返そうと腐心する人がどれだけいるのか、火事場から逃げるように優秀な人が去っていってしまうのか、そこでGoogleの真価が問われるだろう。

組織の新陳代謝はどうはかるのか

組織が大きくなればなるほど、組織にぶら下がるタイヤ社員は多くなる。Googleとてそれは例外ではない。全社ミーティングで表彰されなくても、社内のエンジニアからの評価が低くても、どこのプロジェクトから声がかからなくても、固定給がはいり、豪勢なランチにありつけ、スナック菓子も食べ放題、生活に必要な洗濯機などの施設もそれなりにそろっていれば、十二分という人がいても全く不思議はない。
業績が絶好調の際に、急激に雇用を増やせば、「成功している会社だから」という理由で人は多く集まるのが一般的。有能か無能かを見極めること以上に、一度会社に入ってしまった無能な人に会社から退出して頂くのは難しい。優秀なエンジニアが多いことはもちろん理解しているが、そうではない人が一定規模に到達し、ぶら下がり始めた時に、どのように組織に新陳代謝を働かせるのか、そこでもGoogleの力が問われるだろう。

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