Thoughts and Notes from NC

アメリカ東海岸の片隅から、所々の雑感、日々のあれこれ、読んだ本の感想を綴るブログ。

『なんでもわかるキリスト教大事典』 キリスト教を横軸で捉える

先日読んだ『キリスト教から読む世界史』がキリスト教を歴史という縦軸で捉える本だとしたら、本書『なんでもわかるキリスト教大事典』は教派という横軸で捉えている。

 

なんでもわかるキリスト教大事典 (朝日文庫)

なんでもわかるキリスト教大事典 (朝日文庫)

 

 

筆者八木谷涼子女史はキリスト教徒ではないにも関わらず、その幅広い教派横断な知識を元に、協会運営者の勉強会などに登壇する変わり者だ。教会とそこにおける教徒の振る舞いなどの「現場」の視点からキリスト教は語る独特な視点は、工場という現場から製造業を語るような独特の凄みがあり、興味深い。


「第2章 比べてみよう教派いろいろ」は、本書の屋台骨であり、各教派の特徴が紹介されているが、その構成こそが本書の真骨頂。

  • 名称の由来と起源
  • 特徴と教義
  • サクラメント
  • 組織形態
  • 礼拝に行ってみると
  • 人の傾向
  • 外から見るとこんな側面も
  • 四方山話
  • 翻訳者や作家へのアドバイス

というフレームワークで9つの大きな教派が紹介されている。これはかなり大胆な構成だ。何が大胆かと言えば、フレームワークを作りあげるのは困難ではないと思うが、9つの教派について書き上げることが容易ではない。机上の学習だけでなく、教会に足繁く通い、各教徒と色々なことを話し込んでえた情報、そして多くの映画や文学作品やニュースなどの幅広いソースからとりいれたあらゆる知識が、これでもかとばかりにてんこ盛りに、惜しげもなく提供されており舌をまく。

が、その内容も決して冗長ではなく、簡潔なのがありがたい。「外から見るとこんな側面も」という箇所は、他の教派との対比が中心に語られつつも、他の教派からの「あいつらの、ああいう点はどうなの?」みたいな話もマイルドかつ知的に語られており興味がそそられた。そして、どのカテゴリーにも当てはまらなかったが開陳せずにいられなかった知識が「四方山話」にぶち込まれており、またこの「四方山話」の分量が半端でないところも本書の特色の一つだ。


長くアメリカに住んでいるの読書はもっぱらキンドルで、本書もキンドルで読んだ。キンドルの弱点はぱらぱらと拾い読みをしたり、手軽に読み返しができないことにある。本書は、是非実際の本を是非手元に置いて、たまに見返したり、他の本を読む際の参考にしたいと思った。タイトルで謳っている「大事典」という言葉に偽りはない。

『キリスト教からよむ世界史 』 5年越しのお勉強

アメリカの日常生活にはキリスト教が溢れている。街の至る所に教会があるし、日曜日の午前中は教会に礼拝に行く人が多いためゴルフやヨガはがら隙だし、子どもに人気のファストフードのチックフィレイ(Chick-fil-A)は安息日である日曜日には営業をしない。人々が誰に対してもオープンでフレンドリーであるのも「あなたは隣人を自分自身のように愛さねばならない」というキリスト教の教えがその支柱にあるのではないかという肌感覚がある。

そんな環境で生活しながら、私のキリスト教についての知識は穴があったらはいりたいくらい乏しい。小室直樹氏の『日本人のための宗教原論―あなたを宗教はどう助けてくれるのか』とマックスウェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神 (岩波文庫)』の端っこをかじった知識くらいしかなく、アメリカの街角でよくみかけるバプテスト教会って、どういうポジショニングなのかとか、恥ずかしながら理解していなかった。

流石にもう少し勉強しないといけないだろう、という問題意識をうっすら持ちつづけて彼此5年くらい経つのだが、今年の夏の一時帰国の折に本屋で本書『キリスト教からよむ世界史 (日経ビジネス人文庫)』を見かけ、遂に着手をすることになる。

 

本書を選んだ一番の理由は「わかりやすそう」だから、である。「教皇権と皇帝権 ヨーロッパ世界の形成」、「修道院と農業改革 祈り・学び・働く世界の誕生と変遷」、「十字軍と東西交流 当初の目的から外れていった運動」、「パントワインの否定から始まる 宗教改革とローマとの決別」というような30のトピックで構成されており、主だったキリスト教史をお手軽に理解するには良さそうに見えた。

各トピックは、タイトル、サブタイトル、概要、そして本文という形で構成されている。一例をあげるとこんな感じだ。 

キリスト教からよむ世界史 (日経ビジネス人文庫)

キリスト教からよむ世界史 (日経ビジネス人文庫)

 

 タイトル:宗教戦争
サブタイトル:新旧の衝突と主権国家の誕生
概要:
歴史が大きく変動する時には、何らかの原因があります。16〜17世紀の宗教改革・宗教戦争はヨーロッパの歴史を大きく変えましたが、教会の腐敗という言葉だけではない、もっと大きな社会の変化がありました。経済活動が盛んになり、農民や市民の意識が高まっていたこと、さらに諸侯たちが、教会と皇帝という2つの権力が対立している中で、新しい問題意識を持ち始めていたことです。宗教改革者の問い掛けはこれらに応えるものになりました。
本文:(割愛)

このタイトルとサブタイトルの内容の意味するところを理解しつつ、概要の内容を頭にいれれば、キリスト教を軸に大ぐくりに世界史をおさえることができる。そういう意味で、初学者である私にとって、本書の一番の価値は、このわかりやすい構成である。

一度読み通した後に、タイトル、サブタイトル、概要だけを拾い読みをしていくと歴史の流れをつかむことができるし、特定のトピックについて本文を再度読み直し、深堀りすることもできる。また、各章のくくり方も絶妙である上、その各章が10ページほどの本文まとめられているので、キリスト教や世界史の知識がさほど無くても、各章を読み切ることは苦ではない。読み通せば、カトリック、プロテスタント、イギリス国教会、ピューリタン、イエズス会、バプテストなどの関係とその世界史上の役割をより立体的に捉えることができるようになる。

 

上述した長所をあげつつ、本書の欠点もあげさせてもらうと、ある程度前提となる世界史並びにキリスト教の知識がないと理解が容易ではない点だ。表紙から感じる印象は「わかりやすそう!」だが、読んで見たら意外と初学者に優しい本ではなかった。

本書だけ読めばある程度の理解をえることができるようになっていれば良いのだが、ウェブなどで少し勉強をした上で読まないと、章によっては理解が容易ではない。例えば、「十字軍と東西交流 当初の目的から外れていった運動」について言えば、「十字軍というのは当初はエルサレムをイスラム世界から奪還することを目的に派遣され、当初は一定の役割を果すものの、そのうち対象がイスラム勢力が盛んなエジプトに変わったり、政治的な思惑によりキリスト教圏である東ローマ帝国を征服したり、迷走をみせる。一方で、イスラム圏の高度な文化がヨーロッパ圏に展開され経済と文化を発展させるきっかけとなる。」というような理解をもって本文にあたるとぐいぐい読めるが、そういうバックボーンがないと高々10ページを読む足取りが一気に重くなる。

 

私の場合はYouTubeにあがっている動画などで勉強をした上で、本書にあたるという作戦で大いに勉強にはなった。私のような不勉強な人間には少し骨があるが、世界史にある程度あかるい、もしくは粘り強く勉強しつつ読み進める意欲のある方には本書はオススメである。

甥がアメリカにやってきた アメリカの日常と日本の日常

この春に大学生になった甥がアメリカを訪問したい、と言っているというのを聞き私の心は踊った。その甥は私の兄の長男であり、所謂初孫であった。初節句には巨大鯉のぼりを引っ張り出すという両親の張り切り様は当然のことであるが、私はこの甥を大いに可愛がり、その溺愛ぶりは周囲がひくレベルのものであった。「子供嫌い」であった私の中にあった「子供=うるさい=嫌い」という数式がガラガラと音を立てて崩れ去り、甥と接することを通して、私は「子供好き」に転身してしまった。

 

自分にも子供ができたことにより、甥熱はそのまま、いや当然それ以上にわが子に注がれるようになった。そして、私の渡米も伴って甥と会う機会は減っていき、会う頻度も数年に一度くらいに下がっていった。が、「甥が来たら色々アメリカで経験をさせてあげられるのに」とその来訪を待ち望んでいたのも事実であり、渡米5年目にしてその機会がついに訪れて、心が踊ったわけである。

 

やることなすこと初めてのことで、ホテルの朝食のカリカリベーコンから黄色いスクールバスまで、細かなアメリカの日常に大いに楽しんだようだ。その中でも、特にアメリカの人々がオープンでフレンドリーにあることには驚きと感銘を受けた模様。LOWE’Sというホームセンターで買い物を私としている時、隣で庭仕事用に手袋を物色していた男性が、「君たちはどこの国の言葉が話せるんだい?」といきなり聞いてきた。日本語だと答えると「Helloは日本語でなんて言うんだい」と聞いてきて、片言の日本語で「コンニチハ!」を連発する。アメリカ生活が5年以上に及ぶ私にしてみれば、なんでもない多民族国家アメリカの日常であるが、会ったこともない人が買い物中に急に親しげに話しかけることそのものが甥には驚きであったようだ。

 

また、住んでいるコミュニティー内を二人で早朝にランニングをしている時に、庭仕事をしていた見知らぬおじさんが「Hi good morning!」と声をかけてきたので、私は「Hey good morning」と声をかけるも無言の甥。そのまま走りながら「声をかけてもらったんだから、こちらも挨拶しないと感じ悪いよ」と注意すると、「えっ!?あれは叔父御(甥は私をそう呼ぶ)の知り合いで、叔父御に話しかけたんじゃないの?」と言うではないか。

「いや、全然知らない人だけど、ランニングしたり、庭仕事したりの朝活をしている者同士なんだから、声くらいかけるって」と言うが、これもかなり驚きだった模様。日本ではランニング中に会釈くらいはするかもしれないが、声をかけるなんてことは皆無だという。しばらくしていると、50メートルくらい先からこちらに向かって走ってくる人を発見。「あの人も間違いなく、5メートルくらいまで近づいたら声をかけるから、Good Morningって言うんだぞ」と指示し、案の定声をかけられ、手堅く「Good Morning」と打ち返すことができた甥。結局10キロくらいのランニングの中で4−5回挨拶することになり、アメリカ式の挨拶筋が鍛えられたようだ。

 

ショッピングモールや食料品店など、そこかしこで誰に対してもオープンでフレンドリーなアメリカの日常に触れた甥。2週間ほどの滞在で観光地への短期の旅行だけでは触れることのできない多くのアメリカの日常に接し、日本の日常を見つめ直す機会となっているようでシメシメという感じだ。続く。

『妻のトリセツ』 「話を聞かない夫」に「話」を聞いてもらうのに大事なこと続編

何年も前に書いたエントリーなのに、未だに高アクセスのものがいくつかある。『「話を聞かない夫」に「話」を聞いてもらうのに大事な5つのこと』はその一つなのだが、アクセスが多いだけでなく、怒髪天をついた女性がその心情を吐露するコメントを継続的によせる、本ブログの中では珍しいエントリーだ。話を聞かない夫の視点で、現実解を提供したつもりだったのだが、むしろ相互理解の芽をつみ、諦めと断絶の温床となっているケースが散見されることは私にとっては大いなる学びであった。よくよせられるコメントは、「妻だけでなく、夫がどう変わらなければならないのかも、書いてほしい」というもの。気持ちはわかるが食指が動かなかったので放置をさせて頂いているうちに、『妻のトリセツ』という素晴らしい本が出版された。

妻のトリセツ (講談社+α新書)

妻のトリセツ (講談社+α新書)

 

「妻の話を聞くために夫が理解すべきことが書かれた指南書が欲しい」と切望されている女性は、本書を購入し、夫の書架にこっそり鎮座させるのがオススメである。

 

実は、本書を本屋で見かけた時は正直あまり食指が動かなかった。ぱらぱらとめくってみても目新しいことはなかったし、「トリセツ」というモノ扱いする語感に今一つ共感できなかったからだ。が、帰米のフライトは本土まで13時間もかかる。なので、読み応えがある本から読み流せる本までその時々の気分に応じて色々な本が読めるようラインアップをそろえておきたい。というわけで、読み流し用として本書を購入することとした。が、機内で手にとって読み込んでみて、良い意味で期待を裏切られた。これはアタリである。

 

本書は黒川伊保子女史による著で、筆者が女性であるという点でまず信憑性がある。私のようなおっさんが、捉えどころのない女心を多面的にとらえ、論理と説得力をもって語ろうという試みは無謀の一言につきる。やはり餅は餅屋だ。いかにもありそうな、男性が理解しがたい女性同士の会話をいくつも紹介できるのは、女性ならではだ。そして、筆者の新骨頂は、女心のどの部分がおっさんにとって理解が容易でないことを理解した上で、その女心を科学的に解釈し、具体例を用いながら説明し、フレームワークに落とし込む、というビジネスパーソンがすんなり受け入れることのできる論理構成にしていることだ。きっと筆者は『夫のトリセツ』を書かせても、うまく書き込なすであろう。

一つ具体例をあげよう。筆者は女性の会話の感じ方を、

  1. 心は肯定 ー 事実も肯定
  2. 心は肯定 ー 事実は否定
  3. 心は否定 ー 事実は肯定
  4. 心は否定 ー 事実も否定

という四象限にわけ、女性は3番目と4番目は使用しないと断じる。この「心は肯定」というのは、別の言い方をすれば共感をしめすということだ。即ち、共感させ示しておけば、その後の発言や行動の許容度は飛躍的に増す、というのだ。筆者は事実を否定しても、心を肯定しておけば全く問題ないということを下記のような例で紹介する。

ファミリーレストランに中年の女性3人が入ってきた。席に着くなり、一人が季節の限定メニューのマンゴーパフェを見つけた。
女性A「見て!季節限定のマンゴーパフェだって。美味しそうじゃない?」
女性B「あら、ほんと!マンゴーって美味しいよね」
女性C「まったりしてて、アイスクリームと相性もいいし」
ひとしきり旬のマンゴーの美味しさについて盛り上がったのち、Bが「でも、私、チョコね」とあっさり一抜け、Cも「私は白玉にしとくわ」と二抜けした。それでもAは特に機嫌をそこねるわけでもない。
この状況、女性脳同士なら全然不思議でもなんでもない。最初にちゃんとAの心(気持ち)を肯定しているから、あとは何を頼むのも自由というわけだ。

この男性視点で見ると理解し難いやりとりを、四象限のフレームワークで仕訳をして、説明しきる手腕はお見事である。

 

「話を聞かない夫」に「話」を聞いてもらうのに大事な5つのこと』というエントリーとそれに寄せられたコメントをみて、「女性は共感して欲しいのよ」と妻に指摘をされ、「そうだよねぇ」と軽くわかった風に受け流していたが、本書を通してその言葉がようやく腹におちた。その点では、心を入れ替えたつもりであっても、私は未だ「話を聞かない夫」らしい。道のりは遠く険しい。

『ティール組織』へのありがちな誤解

 

全面緑色の派手な表紙に、「上下関係も、売上目標も、予算もない!?」という言葉が踊るこれまた派手な黄色の帯の本と言えば、話題になっている『ティール組織』だ。

 

ティール組織――マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現

ティール組織――マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現

 

 

「売上目標も、予算もない」という箇所がインパクトが強く「目標や指標がなくても余裕で良い数字で作れる魔法の経営」というような大きな誤解をしている人が意外と多いし、そういう誤解から「今一つ現実味に欠き、しっくりこない」と思っている人が多いのはとても残念だ。本エントリーでは帯の「売上目標も、予算もない」という部分を少し深掘りをして、考察してみたい。

 

進化型(ティール)組織はトップダウンの目標を設定しない。

『ティール組織』 P.356

 

 「トップダウンの目標を設定しない」と「目標を設定しない」は、「肉や魚などの食事をとらない」と「食事をとらない」と同じくらい異なることであるが、「トップダウンの」という言葉を取り払って「ティール組織は目標を設定しない」という誤解をしている方が多いことに驚かされる。

 

私は長くアメリカ資本の会社に勤めている。なので、本書の一つの狙いは、株主至上主義のアメリカ型経営に対して、「人々はその仕組に疲れ切っており、もうそれは限界なんじゃない?」という疑問を投げかけることにある、ということが肌感覚として良く分かる。

 

一般的なアメリカ企業では、「トップダウンの目標」は、株主並びに証券アナリストから降ってくる。決算発表の後に、各アナリストが売上、利益率、一株当り利益などの予想値を発表し、その各会社のだしてきた数値の平均が大凡の「マーケットの期待値」として扱われる。その期待値を上回る結果をだせば株価は上がり、下回れば株価が下がるため、その投資家からの期待値が達成すべき目標となる。そういった会社全体に対するマーケットの期待値を部門ごとの目標値として割り振っていき、晴れてその企業の隅々にまで売上目標がばらまかれ、トラッキングが始まるわけだ。

 

その期待値を上回るための熾烈な企業間の競争が、消費者により大きな価値を提供する結果につながったことはもちろん否めないが、企業という生身の人間の集合体を、「労働をインプットとして、売上や利益というアウトプットとする機械」かのように扱う経営に人々が疲れて、滅入っているということが、『ティール組織』に注目が集る背景としてあるのは間違いない。

 

売上や利益というのは、抜群にわかりやすいし、測定もしやすい便利な指標だ。投資家の視点でたてば、様々な会社のパフォーマンスを同一の指標ではかることができれば便利この上ない。が、売上や利益という指標が全ての会社に適した指標なのかといえばそんなことはない。それぞれの企業の存在意義に立ち返って、その活動成果を測ろうとすると、とたんに売上や利益という指標はその輝きを失ってしまう。「未来のモビリティ社会をリードする」というTOYOTAのビジョンの達成度合いを売上と利益ではかろうとしてもそれは無理というものだ。

 

なので、投資家からふってきた売上や利益というトップダウンの指標や予算ではなく、その会社の事業を最も理解している社員自身が、何をもって事業のパフォーマンスを測るかを自発的に考え、コントロールを投資家から自分たちに戻そうぜ、というのが『ティール組織』の自主経営の胆なんだと思う。なので、「トップダウンの目標設定」をせずに、「ボトムアップの実があり、納得感のある目標設定」をするというのが、大事な要素だ。

 

ビュートゾルフというオランダの訪問看護の会社が本書では『ティール組織』の代表格として度々紹介される。ビュートゾルフは12名を最大とした看護チームを形成し、各チームによる自主経営により運営されている。活動のコアとなる看護チームに売上や利益のゴールがトップダウンで割り振られていないという点が本書では強調されるが、売上や利益の代わりに60%の顧客に請求可能な時間の稼働率が求められていることは何故か本書では多く語られていない。

Individual team members are asked to meet a productivity target of 60% i.e. 60% of their contracted hours must be billable. Individual and team productivity are monitored centrally. Team members whose productivity falls below the target are notified individually. Team productivity is visible to other teams through the organisation’s intranet called the BuurtzorgWeb.

A systematic overview of the literature in English on Buurtzorg Nederland

 

私は過去にコンサルティング会社に勤め、稼働率の目標を追っていたのでわかるが、60%というのは厳しすぎはしないが、決して優しい目標ではない。ビュートゾルフの各グループは目標が設定されていないわけではなく、「勤務している時間の内、60%は患者から対価を得て、訪問看護サービスを提供することに少なくとも時間を使うようにしなさい」という売上目標とは異る目標が設定されている点は大事なポイントだ。

 

また、自チーム並びに他のチームの様々な生産性に関する指標*1が社内のデータウェアハウスでガラス張りになっており、いつでも参照することができるし、ハイパフォーマンスのチームに助言を求めることができるというのも興味深い。自分たちが納得感を持って対峙できる経営指標を用い、自分たちのパフォーマンスをあげるために、自身で管理している、というのが自主経営において最も重要なことだ。

 

本書を読んで、今一つ現実味がなく腹落ちしないという方は上記の視点を見逃している人が多いのではないか。上に引用したリンクをたどるとビュートゾルフの経営管理が、より生生しく語られているので一読をオススメしたい。

*1:顧客数、チームの経費、看護の品質、顧客とのやりとりの回数、顧客あたりの看護人数、顧客満足度、チームごとの生産性

アメリカでカスタマーサービスとやりとりする際の十箇条

アメリカ生活できってもきれないのはカスタマーサービスとの電話やチャットのやり取り。やれ請求書が間違っている、やれ届いた品物が来ない、やれ予約内容が違っている、やれネットワークがつながらない、などオペミスや小さなトラブルにあふれるアメリカ。そういう「困った事案が発生した際の第一相談窓口」がカスタマーサービスである。

 

これが強い味方のように見えるが、実際に問い合わせて見ると、杓子定規でサービス精神に欠くし、確認して折り返すと言いながら折り返しの連絡はないし、タライ回しにされる度に一から説明が求められるし、担当者によって当り外れがあるしで、良い思いをしたという人は結構少ないのではないか。とかく日本のハイタッチのサービスに慣れていると、折り返すと言ったのに折り返さない、というだけで「ありえない!」と怒り心頭と言ったところだろう。

 

カスタマーサービスの問い合わせに、時に怒り、時に失望し、時に途方に暮れ、時に怒髪天をつく思いをした私も、最近は大分慣れてきたこともあり、必要なサポートを比較的にスムーズに得ることができるようになった。その要点を一言で言えば、短い時間の中でもカスタマーサービスの担当と良好な人間関係を築き、「今日は沢山の電話を受けてきたが、この人の助けになりたい」と思ってもらうよう、彼らのマインドシェアをとることだ。本エントリーでは、私の経験を下に、カスタマーサービスとのやり取りをスムーズにする10箇条を共有したい。

 

1. 感情を横に置き、問題にフォーカスする
請求金額が異なっていたり、指定日に品物が届かない時に発生する感情は怒りや失望である。別にその感情をおぼえるなとは言わないが、その感情を担当者にただぶつけても多くの場合はうまくいかない。「どーなってんだ、ごるぁ!」という感情をそっと横に置き、何が問題で、その問題によりどう困っており、解決に至らないとどうなってしまうのか、という事実を整理し、きちんと説明することが大事だ。オリエンタリズムの漂う微妙な発音で、怒りにまかせて英語で怒鳴ったところで、何一つ好転しない。

 

2. 敬意をもって接する
カスタマーサービスというのは決して人気職業ではない。大体の担当者は薄給であり、一日に100件を超える電話を受け、そして怒鳴りつけられることが多く、敬意を払われることは少ない職業だ。電話口で怒鳴られまくっているうちに、お客様の問題を解決してサポートしたい、という気持ちが吹き飛んでしまった人は少くないはずだ(もちろん、そんな気持ち初めから持ち合わせてない人も沢山いるであろうが、、、)。相手を自分の怒りやイライラをぶつけるはけ口として見るのではなく、一生懸命仕事をしている一人の人間として見て、敬意を持って接することが、相手から親身なサポートをえるための入り口だ。

 

3. 出だしが肝心、明くフレンドリーに接する
担当につながると大体、「Hi, this is Mike with AT&T, how can I help you today?」みたいな感じで会話がスタートをする。まずは、喧嘩腰ではなく、

"Hi Mike, I'm ktdisk, I hope you can help me with my problem."

というようなことを、なるべくフレンドリーに、明く言うことが大事だ。ここの出だしを上げ調子でいくことで、まずは「あぁ、怒鳴られなくて済む」と相手のガードが下げることができる。怒りのはけ口扱いされることが多いので、始めに友好的かつ敬意を込めて接することは、短いコミュニケーションの中で良好な人間関係を築くためにはとても大事なことだ。

 

4. 担当者の名前を適宜会話におりまぜる
こちらから説明をし、向こうが確認や質問をし、こちらがされにそれに答えるという会話のキャッチボールを担当とするわけだが、こちらが答える際に"Mike, good point"とか、"Yes, Mike"とか、とにかく相手の名前を呼ぶことから自分の発言を始めることは、会話に友好的な雰囲気を醸し出すためには大事だ。よい担当者の受け答えをよく聞いていると、必ず一回一回こちらの名前をおりまぜているのに気付くはずだ。また、これは対応が悪かったり、急にたらい回しされたとしても、「君の名前をきちんと覚えているからね」という牽制にもなる

 

5. 怒るのではなく、助けを求め、その状況に共感をえる
一番やりたいことは、怒鳴って溜飲を下げることではなく、今の問題を解決することのはず。なので、今自分がどのように困っているのかをきちんと説明し、その困った状況に共感をしてもらうことが大事だ。共感をえるのに多少の感情の吐露はあってもよいかもしれないが、怒鳴っては共感はえられない。また、
"You must have a lot of patience to help people like me all day."
というようなことを言って、相手の困っている状況に共感を示すのも有効な手立てだ。自分が相手を理解しようとすれば、相手だって自分のことを理解しようとしてくれる。根は困った人を助けたい人たちなんだ、という相手への信頼が、共感をえて、サポートを引き出す重要な鍵だ。

 

6. 相手が営業行為に及んだ際は受け流す
多くの場合、カスタマーサービスの人たちは、追加並びに特別なサービスを営業することも仕事のうちに入っている。たまに、助けを求めて電話をしているのに、そっちのけで新しいサービスの提案をする場合がある。そういう時も「ふざけんな!問題解決が先だろう!」という感情はおいておき、
"Thank you, I have already talked to customer service five times this week, and I already have the best deal. I just need help with my problem."
みたいな感じで受け流すことが大事だ。カスタマーサービスの人間は基本的には営業は好きではないけど、義務としてやらないといけないのだ。なので、既に案内済みであった、ということがログに残せればよいので、さらっと上記のように受け流すことが肝要だ。

 

7. 顧客満足度調査に協力する
顧客満足度調査のスコアというのは、カスタマーサービス部署の担当の評価としてとても大事なものだ。雲行きが怪しくなると低いスコアを避けるために、急に別担当者に回されることもあるくらいだ(腹の底からむかつくが、、、)。もし、相手の親身なサポートで無事問題が解決に至った場合は、

"You have been SO helpful today, thank you so much! Can I complete a survey about your customer service?"

というように、心の底からお礼をいった上で、顧客満足度調査に協力する姿勢をみせると良い。良いサービスをすれば、心の底から感謝されるという成功体験が、カスタマーサービスの質全体の向上に繋がるはずだ。

 

8. 次もこの担当のサービスを受けたいという場合は、連絡先を聞いてしまう
カスタマーサービスは当たり外れが大きい。良好な人間関係を構築しようとベストを尽くしても、ダメな担当はまったくダメということもあるので、当たりをひいたら、連絡先を教えてもらい、直接その担当者に連絡できるよう

"Can you give me the number I should call to reach you if I have further problems?"

という感じで聞いてみると良い。正直、教えてくれないケースもかなりあるが、駄目元でも聞く価値は十分にある。

 

9. 電話の終わり際にはきちんと内容を記録する
何月何日に、どの担当と話をして、どんなフォローをすることになったのかという点をきちんと最後に記録することはとても大事だ。カスタマーサービスに電話をすると某かのフォローが必要になることが多い。が、残念ながらそのフォローがこちらの期待通りに遂行されないケースもままあり、その場合は再度電話をしないといけない。その際に、
"I talked to Mike on 1/20 and he set a technician appointment for 1pm on Tuesday."
のような形で前回の内容からスタートしないと、結局振り出しに戻る状態になってしまう。追加の手間と、不要なストレスを感じないために、面倒でもきちんと記録をとるべきだ。

 

10. 最終手段はRetention Department
上記のような手を尽くしても、あたった相手が悪いとどうしても物事が前に進まない。これは最終手段であるが、今の担当者ではもうお手上げ状態になったら、

"Please connect me to the Retention Department."

とお願いする手がある。この部署は文字通り顧客離れを防ぐための最後の砦であるため、熟練の手練が出てくることが多い。いつも「Retention Departmentでてこい!」だと要注意顧客リストにのってしまう恐れもあるので、これは最後の手段であることは強調しておきたい。

 

以上、私のアメリカ生活での経験、並びに様々な友人からもらったアドバイスに基づいて、カスタマーサービスとやりとりする際の十箇条を記載してみた。少しでも参考になり、読者がよりよいアメリカ生活を送れることを願ってやまない。Good Luck!

アメリカで日本のお風呂を夢見るはなし

私は湯船につかるのが大好きだ。芯まで冷えた体がじわじわと温められるぬくもり感、足腰の疲れが緩みほぐされていく心地良さ、うっすら汗をかきつつ体の中の不純物がでていく爽快感、など入浴は晩酌につぐ至福の一時である。この年末年始は渡米以後初めて日本で過し、真冬に湯船のある生活を満喫しつくした。わが家はアメリカの学校の夏休みにあわせ、通常は夏に一時帰国する。その際にも毎日湯船にはつかるのだが、やはり真冬のお風呂の気持良さは夏の比ではない。寒い冬に毎日湯船につかることの幸せをかみしめた年末年始の数週間であった。

 

その冬の日本への一時帰国を終え、帰米する帰途に本エントリーを書いているのだが、果たして湯船のない生活に戻れるのだろうか、それが一番の不安である。風呂好きの私ですら、アメリカ生活においてお湯をはるのは、冬であっても月に2回程度だ。そういうことを言うと、「バスタブってないんですか?」とよく聞かれる。もちろん、バスタブはあるのだが(しかもわが家には風呂が3つある)、日本のお湯はり機能や追い炊き機能がないので、どうしても面倒でお湯をはるのを敬遠してしまうのだ。

 

湯船を洗って栓さえしておけば、キッチンにあるパネルのボタンを押すことで湯量と湯温を設定できる日本のお風呂機能は、アメリカの感覚で言えば23世紀のテクノロジーだ。アメリカはといえば、お湯の蛇口と水の蛇口を回し、手で熱さを確認し、その時ではなくお湯がたまった後に最適になるように微妙な温度調整を二つの蛇口をひねりながらして、お湯がたまるまでその場で仁王立ちしていなければならない。おまけに、他の家族も入るとなると追い炊きができないので、お父さんは後の人が快適にはいれるよう地獄の釜のように熱いお湯に入るのがわが家の習わしだ。そういう細かな手間やチャレンジについて考えると、ついお湯をはるのが面倒くさくなってしまうのだ。

 

日本の良い文化や技術をとりいれようという気運はアメリカでは高いのに、どうしてこの素晴らしい風呂機能はアメリカで展開されていないのだろう。これには文化的なものとマーケティングの二面で問題があると私はにらんでいる。

 

アメリカの職場の同僚から、今度東京に行くのだけど土日にオススメのスポットはあるか、とたまに聞かれ、冬であれば箱根の温泉を勧める。が、温泉宿での過ごし方を説明すると「いやぁ、それはちょっと違うかな、、、」というリアクションが殆んどだ。アメリカでは、大人が服を着たまま子どもをお風呂にいれることはあれど、大人も裸になって子どもと一緒にお風呂にはいることはない。家族であっても裸をみせることに抵抗はある模様で、いわんや公衆浴場をや、というところなのだろう。文化の障壁から寒い日に温泉に入って体を芯から温めるという原体験に到ることがないので、家の風呂でも湯船につかって追体験をしたい、という気にならないのだろう。

 

そういう壁を超えるためには、レオナルド・ディカプリオやマドンナが日本のウォシュレットを絶賛したように、レディ・ガガとか、テイラー・スウィフトとかに、日本の温泉と給湯システムを絶賛してもらうようにリンナイとかがマーケティング活動をすればよいのではないかと思う。日本贔屓のハリウッドスターの来日時に、強羅花壇とかに招待をして、温泉を満喫してもらい、さらに最新の給湯システムを彼らの家にプレゼントして絶賛してもらう。アメリカはブームで火がつくと市場がぱっと広がるので、そういうマーケティング活動をリンナイとかノーリツとかに積極的に実施してもらい、日本の湯船文化をアメリカに是非浸透させて欲しい。

さて、そろそろシャワーでも浴びるか、、、。

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