Thoughts and Notes from CA

アメリカ西海岸の片隅から、所々の雑感、日々のあれこれ、読んだ本の感想を綴るブログ。

『社会という荒野を生きる』 同僚のプールハウスでビールを飲みながら家族と人生について考える

週末に、同僚の家に家族で招かれ、夕食を食べに行った。少し郊外にあるものの、7,500平方メートルという広大な敷地に、400平方メートルくらいのメインの建屋という豪邸。そして、家を購入後に新設したジャグジー付きのプールの脇に、さらに追加で建てたプールサイドの2階建てのセカンドハウスがあり、その外の大きなソファーで、軽食をつまみながらビールを飲み、談笑するというゴージャスなセットアップ。ガレージは3台車がはいる大型のもので、その一台分のスペースにトラクターのような芝刈り機があり、プールハウスにもガレージがあり、こちらにはセーリングボートが2艘鎮座。夕食はプールサイドでシーフードをボイルして、プールハウスで白ワインを飲みながら、むしゃむしゃ食べるという、洗練はされていないが贅沢な楽しい夕餉。いやぁ、圧巻で家族で良い経験をさせてもらった。

 

子どもたちからは「お父さんも、頑張って!」と檄を飛ばされたわけだが、その同僚は職位で言えば私より一つ上であるものの、給与に家のサイズの差ほどの差はないと思う。「7,500平方メートルの敷地を買おう」とか、「余っているスペースにジャグジー付きのプールとプールハウスを建てちゃおう」というスケール感はお金の問題に関係なく私にはない。また、セーリングボートのボディにヤスリをかけて、ペンキをぬって週末を過ごそうという趣味や余暇への並々ならぬ意欲も私からは絞ってもでてこない。勿論、育った国と環境の差はあると思うが、それ以上に「自分が暮らす家とそこでの家族との時間を最高のものにしよう」ということへの気合の入れ方の違いを見た。私もアメリカに来てからは、家族との時間を今まで以上に大事にし、週末も平日も家族と多くの時間を過ごし、その生活にとても満足している。が、きっと彼の場合は「大事にしている」なんて生易しいものではないのだろう。それそのものが人生の目的であり、そのために激務やストレスに負けずに仕事を頑張るという原動力になっているのだ。

 

そんな風に先週末を反芻している傍ら、宮台真司氏の『社会という荒野を生きる』を読んだ。「仕事よりプライベートを優先する若者が増え、若者の企業への忠誠心が下がっている」という時流の背景を問われた時、右肩上がりの経済は親の代でとっくに終了し、終身雇用も壊れていく中で忠誠心が下がるのは極めて自然、という極めて自然な回答をしたが、その後が面白かった。では仕事より優先したプライベートの時間に何をするのかこそが大事であり、「個人のスキルアップ」、「趣味に興じる」、そして「自分の本拠地を作る」という時間の過ごし方があり、その3点目こそが一番大事であると説く。

 

仕事は仕事として、「自分のホームベース=本拠地、つまり出撃基地であり帰還場所であるような場所を、ちゃんと作ろうじゃないか」という方向です。典型的には家庭や地域です。

『社会という荒野を生きる』

この「自分のホームベース=本拠地、つまり出撃基地であり帰還場所であるような場所」というのはうまく言語化したものだと思う。が、親がそういう場所を家庭に作っていなかったり、地域のコミュニティ活動に勤しむ姿を見てない日本の若者には、きっと想像が難しいんじゃないかと思う。核家族化が進み、親が長時間労働を強いられ、家族の時間が少ない中で育った世代には、家庭が出撃基地であり帰還場所というのは肌感覚としてつかみにくい。一方でアメリカで生活をしていると、前出の同僚のように「自分の本拠地」作りに人生をかけて取り組んでいる人、それが言語化されずとも肌身に染みついている人が本当に多いので、宮台氏の言葉はすっと入ってくる。

アメリカに来たばっかりの頃は、日本の長時間労働の癖が抜けずに、だらだらオフィスにいがちの私に、「お前はアメリカに来たばっかりなんだから、もっと早く帰って、家族と時間を過ごしなさい」と上司によく説教された。きたばかりのアメリカで仕事でまずは認められ、生活に先立つお金の心配を除いてこその家庭生活であろう、と当時は思ったりした。が、あれは今から思うと「きちんとアメリカので本拠地をまず築いて、その次に仕事に取り組むのが順序である、揺るぎない本拠地無くして、仕事のエネルギーなど湧くかね」という価値観に基く、上司の心遣いだったようにも思える。

 

というように、楽しかった週末を思い出し、家族や仕事や人生について考えながら、その考えをさらに深めるために、「また、遊びにいっちゃおう」と決意するのであった。

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