「このままじゃ、俺、離婚されちまうよ!7時以降ならオンラインに戻れるから、悪いけど宜しく!」、悲鳴とも聞こえる言葉を残して、ものすごくやりかけの作業を残してオフィスを夕方5時に去る同僚に対して、呆然としながらも「g, good luck...」という言葉しか私は出てこなかった。
子供の送り迎えをどのように夫婦間で分担するのかについては、日本よりずっと進んだアメリカにおいても、家庭によってかなりトーンが異る。ベジタリアンの中にも、牛乳や蜂蜜も食べないという純度の高い人もいれば、たまに肉を食うことも厭わないという軽いタッチの人がいるように、子供の送り迎えについても、完全な共働きで完全な分担をしている純度の高い人もいれば、妻が中心だがたまに夫も送り迎えをすれば許されるというレベルの人もいる。
冒頭で紹介した同僚は純度の高い部類に入る人で、緊急度の高い”Fire Drill"をその週に私と一緒に取り組んでおり、毎日夕方にVPとレビューをして、翌日にレビューででたアクションを二人でつぶす、ということを数日繰り返していた。ばたばたと慌しく、プレッシャーはきついものの、6時30分くらいにはオフィスをいつも出ていたので、私にしてみれば全然オッケーという感じだったのだが、私の同僚はと言えば、4時30分くらいに困った顔をして、「ちょっと、緊急の仕事がまた入って、今日も迎えにいけないんだけど、お願いできないかなぁ」と彼の妻に電話をする日が続いていた。ある日、VPのレビューが6時に後ろ倒しになってしまった上に、追加でいくつかの分析をその日のレビュー前までに完了させるよう頼まれた。きっと彼はその日の朝に「今週は代わりに何度も迎えにいってくれてありがとう、今日こそは絶対俺が迎えにいくから!」なんて会話をしていたと想像される。そんな日に限ってVPの都合でレビューの時間が後ろ倒しになってしまったが、子供の迎えを先に終えて、レビューは家から電話で入ればいいや、という算段をしていたに違いない。悪いことにさらに追加の分析作業が入ってしまい、ぎりぎり迄オフィスで私と頑張ったのだが、これはもう無理そうだという判断をお迎えに間に合うぎりぎりのタイミングで下し、冒頭のシーンになったわけである。
私は妻が在宅勤務なので、そういう苦しみはあまりないのだが、そういう苦労話については皆ネタを持っていて結構面白い。他の同僚と昼食を食べた際も、「送りは妻、迎えは俺って役割分担なんだけど、いつもギリギリの時間の5時半にプリスクールに駆け込むことが多くて、娘から『どうして、私はいつも最後の一人なの?いつも教室で一人ぼっちだわ』って怒られちゃってさぁ、なるべく少しでも早くいくように4時半から5時はスケジュールをブロックしているんだけどね、、、」と切ない愚痴を聞かされた。
心置き無く残業ができることについて、妻に感謝の気持ちを覚えることなど、正直日本で働いていた頃はなかった。でも、そういう同僚に沢山触れることにより、「気兼ねなく残業できるなんて、自分は恵まれているんだ、妻よありがとう」という気持ちが少しづつ湧いてきている。パフォーマンスが悪ければ容赦なく解雇される環境にありながら、家族との時間についても重いコミットメントを背負っているアメリカのワーキングファーザーに幸あれ!