OracleはSun Microsystemsを買収することによりハードウェア事業を手にしたこととなる。ハードウェア企業がソフトウェア企業を買収したことは多々あれども、その逆はかつて例がない。ソフトウェアがハードウェアのおまけだった時代から、ソフトウェアそのものが産業として成り立つ時代にシフトし、かつてのおまけが遂にハードウェアを飲み込むことになったという点で、今回の買収はIT業界の歴史に残る出来事といって間違いない。
今回の買収について、ハードウェア事業は複数社に売却し、ほぼ無料で莫大なソフトウェア資産を手にするのみというLarry Augustinの見方もあるが、その線はないということをあえて前提とし、ハードウェア事業を手にしたOracleがどこへゆくのか考えてみたい。
Oracleのラリー・エリソン会長は「Oracleはアプリケーションとハードウェアのシステム全体を設計・統合できる唯一の企業となった。われわれの顧客はこの買収により、システム統合コストの削減と性能・信頼性・セキュリティの向上という利益を得る」と語った。
と、クレイジー・ラリー・エリソンはこう豪語する。Oracleがハードウェア事業に参入しようとしたのはこれが最初ではないし、とある元Oracle社員によると、ラリー・エリソンは「いつかはIBMのような会社を作りたい」なんて語ってたこともある模様。IBMが断念したSun買収を自らがなしえ、長年の夢を実現し、さぞご満悦のことだろう。
「Oracleはアプリケーションとハードウェアのシステム全体を設計・統合できる唯一の企業」というあたりに「俺はついにIBMを超える会社を築いたぜ」という彼のご満悦度合いがうかがえる。たしかに、People / Siebelの買収を通して築き上げたアプリケーション群はIBMにないものであり、半導体、サーバー、OS、ミドルウェア、DB、アプリケーションというラインナップだけをみるとシステム全体という言葉はしっくりくる。ただ、IBMはアプリケーションのレイヤーは欲しいけど持っていないわけでなく、ソフトウェアはミドルウェアのレイヤーまで保持し、最終的に顧客の要件を実現する部分はサービス・ビジネスとして大きく稼ぐという戦略をとっているにすぎない。そういう点で、サービス部分がIBMよりはるかに見劣りするOracleが、道具だけを取りそろえて、「システム全体を設計・統合できる唯一の企業」とうたうことには違和感を覚える。ラリー・エリソンが彼の意図の中で胸をはれるのは、上流から下流までのサービスを提供できる会社までを買収してからだろう *1。
また、昨今のIT業界の大局観からすると、仮想化技術やクラウド・コンピューティング・サービスによりハードウェアそのものは抽象化されるというのが世の流れであり、特定のベンダーが「システム全体を設計・統合できる」ことそのものにそれ程魅力があるかというと甚だ疑問だ。Oracleの顧客満足度調査の結果、「ハードウェア事業を保持していなくてシステム全体を統合できる能力をOracleが保持していない」ことに不満をもつ顧客が多かったのだろうか?それは感覚的にかなり考えずらい。
自社のハードウェアの技術とエンジニアを活用し、Googleがユーザからハードウェアを抽象化し、様々なサービスを提供するかのごとく、自社の抱える企業向けアプリケーションをSaaS形式で提供する形に一気にシフトであるとか、超巨大企業グループに対して自グループの中だけのプライベート・クラウド空間を提供するとかの方向であれば、かなり面白いと思うが、自社の既存ビジネスをぶち壊すようなイノベーションをOracle自らがおこせるとは少し考えずらい。まぁ、クレイジー・ラリー・エリソンならやるかもしれないが。
But I think Cisco’s moves into servers made Larry Ellison start to wonder “why not us, too?”
Ciscoのサーバ事業への参入が、ラリー・エリソンを「俺たちも参入しない理由がどこにある?」と駆りたてたんじゃないかと、私は想像している。
今回のSun買収理由については色々憶測がとんでいるが、この誰も予想もしないタイミングで急転直下で決まったことから考えるに、Ciscoのサーバ事業参入に触発されたラリー・エリソンの思いつきと勢いというのはない線ではない。まぁ、天才が故に許されることともみれるが、仮にその味方が正しかったとすれば、厳しいコスト削減にあえぐOracle社員にとっては、「だったら、ありあまり個人資産でやってくれ・・・」という感じではないだろうか?まぁ、本当に個人資産で買えてしまうあたりが、ラリー・エリソンのすごいところだが・・・。