- 作者: 幸田真音
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2007/05
- メディア: 単行本
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- M&Aを駆使して多角化を推進しようとし、ヴァーグ社にTOBを仕掛けた事業会社
- ヴァーグ社の保持する土地や音楽コンテンツなどの含み資産を狙いTOBを仕掛ける投資ファンド
- ファンドの利益拡大をあくことなく追求し、TOB合戦に乗じて利ざやを稼ごうとする投資ファンド
- 買収合戦に絡み、手数料収入などおこぼれにあずかろうとする証券会社
- そして、自分たちが手塩にかけて育ててきた会社を買収者から自社を何とか守ろうとするヴァーグ社
などの、様々な利害関係者がどろどろに絡み合う『ヒルズ黙示録』を彷彿させる魑魅魍魎スーツ族の饗宴系の小説。もっとも、こちらは小説のため、随所に「読ませ、楽しませる」工夫がちりばめられており、そこから導き出される教訓や知識は『ヒルズ黙示録』を読んだ後だと月並みだが、「読み物」としてはこちらの方がはるかに読み易い。『ヒルズ黙示録』の丹念な取材に基づいた事象の積み上げに若干退屈さを覚える人はこちらの方がお勧め。
「経済モノのフィクション」と聞いて、「企業買収に関わる現実がこんなに刺激的で、生々しく、興味深いのにあえて小説など読まなくても・・・」と当初思ったのだが、実は本書は村上ファンドやライブドアなどの実際の企業・人物をモチーフとして利用しており、それなりのリアリティもある。もちろん小説なので現実と離れるところもあるが、随所に村上ファンド事件を明らかに想定しているシーンもあり、小説という形をとった幸田真音なりの現実の解釈が展開されているとみることもできる。例えば、「東京証券取引所での村上さんのインサイダー容疑を認める記者会見の真相」がどのように描かれているかなど、村上ファンド事件に興味を持っている人は楽しめる。
村上ファンド事件が何を教訓として残したのかについては、依然として世代やそれぞれの立場によって結論が異なる。本書は小説という形をとることにより、各利害関係者の生々しい人生にまでスポットをあて、それぞれの当事者の視点にたって村上ファンド事件を理解するのを助ける。引きっ放しで放置されてしまった小説上の伏線があったり、最後が駆け足で尻つぼみになっているなど、小説の完成度としては不満が残る部分もあるが、軽く週末に読むにはおすすめの一冊。