ktdiskのブログ

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OracleのMySQL買収フェーズ1終了とMySQLの行く末

EC(欧州委員会)がOracleによるSUNの買収を承認した。MySQLの創設者のMonty WideniusはEC(欧州委員会)がこの合併を否認するように、かなり精力的に活動をしていたが、残念ながら彼が望む結論にはいたらなかった。MySQLという代表的なオープンソース・ソフトウェア(以下OSS)がプロプライエタリ・ソフトウェアの代表格であるOracleに買収されるという事象を業界関係者として注目して見ていたが、ようやくフェーズ1が終わったという感を覚える。


MySQLOracleの手に落ちたとしても、フォークを作成することにより、Oracleの呪縛から開放され、不死鳥のように蘇ることができ、それこそがOSSの特徴と強みである」という楽観的な見方も一部にもあるようだが、当事者にとってはことはそれ程簡単ではないことが、Monty Wideniusの"Help keep the internet free"というエントリーを読むとよくわかる。

It is wishful thinking to claim that released under the GPL license is enough remedy for Oracle and "if Oracle is doing something bad" a fork will 'appear' and take care of things.
GPLの下で公開されているという事実がOracleに対する十分な対抗措置となる」とか、「もしOracleMySQLにとってよくないことをしたとしても、フォークが出現することによって事態はおさまる」なんてことは希望的観測も甚だしい。

で、彼が気にしているポイントを要約すると下記のとおり。

  • MySQLソースコードをコピーすることは容易であるが、ブランド、既存顧客、パートナーといった経済的なエコシステムまでコピーすることはできない
  • MySQL規模のプロジェクトを運営するためには、年間5〜10億円の資金が必要となるが、現状のMariaDBのモデルでは、それだけの資金を生み出すことはできない
  • MySQLはデュアル・ライセンスを適用しているため、MySQLの商用ライセンス版を使用し、自社製品に組み込んでいるソフトウェア・ベンダーには、GPLMariaDBでは代替物とならない


当事者ならではの生々しさが大変勉強になる。それぞれのポイントについて、少しコメントを加えてみたい。
まずは一番目の理由。これは、MySQLが長年培ってきたブランド、及び既存顧客基盤や販路という無形資産がOracleの手に移ってしまい、これらはソースコードのようにコピーすることは不可能であるということ。ソフトウェアというのは所詮は部品にすぎないため、パートナーにその部品を活用してソリューションを作成してもらい、それを顧客に届けてもらうというエコシステムの構築はビジネス上決定的に重要な要因となる。「良いものを作りさえすれば、顧客・パートナーは自ずと集まる」というのは耳障りは良いが、顧客・パートナーが使用している製品をリプレースしようとしたことがある人であれば、これが幻想であることはよくわかると思う。
二番目の理由は、データベースという巨大市場で存在感をだす製品となるためにはオープンソースと言えどもそれなりの投資をしなければ十分な開発ができないことを気付かせてくれる。もちろん、5〜10億円という数字はプロプライエタリのソフトウェアと比較すると圧倒的に安いが、ただライセンス収入なしにこの資金を捻出するのは容易ではない、というプロジェクトのリーダーならではの苦悩だろう。OSよりレイヤーが一つ上のため、ハードウェアベンダーから投資をしてもらうのが難しいというのも背景としてはあるようだ。
三番目については、下記のMySQLのデュアル・ライセンスの構造の知識がないと理解が難しい。

Q6: サンの MySQL 商用ライセンスはどのようなものですか。
A: サンは、他のアプリケーションに組み込む、またはバンドルするすべての MySQL ソフトウェア に対して商用ライセンスを提供します。商用ライセンスを利用することにより、OEM、ISV、および VAR が、自社の商用ソフトウェアをMySQL の商用バイナリとともに販売する際、GPLに準拠してソースコードを公開しなければならないという制約はありません。

デュアル・ライセンスというのはオープンソースのビジネスモデルの一つであるが、商用ライセンスから対価をえるというこの手法に内在するリスクが今回顕在化してしまったと見るのが正しいだろう。実際にMySQLは、商用ライセンスを活用することにより、フォークからMySQLの商圏を守っていた。だが、その商圏が買収を通してOracleの手に移ってしまうと、自らフォークを作ってその商圏に切り込むことが同様に容易でなくなってしまった。商用ライセンスではなく、保守からお金をえるようにしていれば、もう少しストーリーは変わったはずだろう。


上記の難しさゆえに、買収以降Monty WideniusはEC(欧州委員会)にはたらきかけをしていたが、そういった政治力の世界では、Oracleのほうがはるかに上手であり、彼がいくら頑張ってもこの差をうめることはできないだろう。おそらく、Oracleには3桁におよぶ熟練のぴかぴかの弁護士がいるのだから。確かに新たにプロジェクトを始動するには、彼の指摘する上記のような難しさはあるのはわかる。ただ、政治活動はこの辺りにして、開発の現場に戻り、上記のような難しさを超えて、魅力的なフォークを作成することに注力をして欲しいというのが、個人的な希望ではある。でないと買収によってオープンソースをつぶすことができるという悪しき認識が拡がってしまいそうなので。

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