ktdiskのブログ

読んだ本の感想、所々の雑感、日々のあれこれを綴るブログ。

Amazonの2枚のピザとAPI公開

前回のエントリーでも引用した"Jeff Bezos' Risk Bet"の中で、Amazonの開発体制に関する面白い話がある。

Small, fast-moving groups of five to eight Amazon employees now could go hog wild with new ideas, such as customer discussion boards on each product page and software to play music and videos on the site. Since then these "two-pizza teams," which Bezos calls them because each team can be fed with two large pies, have become Amazon's prime innovation engines.
小さく、機敏に活動する5〜8名アマゾンの従業員からなるチームは、各製品ページごとの顧客用の掲示板やサイト上で音楽やビデオをプレイする機能などの新しいアイデアに夢中になった。各チームは2枚のLサイズのピザで養うことができるため、ベゾスはこれを"two-pizza teams"と呼んだ。そして、この"two-pizza teams"がアマゾンのイノベーションのエンジンとなった。
"Jeff Bezos' Risk Bet"

アマゾンは2001年にネットバブルが崩壊して直ぐに、巨額の資金を投じて、データセンターとその上で動くソフトウェアをアーキテクチャーから抜本的に作りなおして、近代化を推し進めた。
その際に、単純なハードウェアの増強、多くの新しい機能の実装という類の再構築のみを実施していたら今のAmazonはなかっただろう。
Amazonが実施したのは、増強・機能追加ではなく、増強・機能追加がしやすいプラットフォームの構築と、そのプラットフォームの上で小規模かつ機敏にソフトウェア開発をする"two-pizza teams"という社内組織の構築であった。このAmazon流の再構築が功を奏し、結果として他の書籍販売サイト、ないしe-コマースのサイトを圧倒するスピードで新機能を充実させることに成功した。


そして、もう1つ面白いのが下記の話。

Next came an epiphany: If the new computer setup allowed folks inside to be more creative and independent, why not open it up to outsiders, too? So in 2002, Amazon began offering outside software and Web site developers access to selected Amazon data such as pricing trends, gradually adding more and more until this year.
この新しいコンピュータの構造が、アマゾン社内の人間をより創造的、かつ自立的にしたのであれば、何故それを外にも開放しないんだ?、次にそんな問題提起がされた。そして、2002年にアマゾンは外のソフトウェアやWEBサイトの開発者に価格トレンドなどの限定的な情報を開示し始め、その開示する領域を徐々に今年まで増やしてきた。
"Jeff Bezos' Risk Bet"

自社の開発プラットフォームを外に開放したら、"two-pizza teams"か"one-pizza teams"かわからないが、自然発生的に不特定多数の外部組織が生まれ、クリエイティブな機能がもっと開発されるのではないかと考えたとのこと。属に言うAPIの公開にであるが、社内での成功体験に基づいた施策である点がポイント。
単に「WEB 2.0なのでAPIの公開だ!」と時流に流されてやったのとは違い、社内で発生した現象を、同じように社外でも発生させるためには、どんなことを公開すればよいのか、創造性を喚起するためにプラットフォーム側で何を整備しておかなければならないのか、などのことをAmazon自身でが徹底的に考え抜いたに違いない。
自分自身で考え抜いているが故に、"APIの公開"というデジタルな世界に閉じこもらず、物理的なFulilmentサービスの公開にまで踏み切る想像力が働くのだろう。

  • インターネットバブル崩壊後の巨額の投資
  • 小規模社内組織が創造力を活かす、プラットフォームの構築
  • 自社データの社外への公開

今となっては常識的なことが、非常識だったころに、その発想にたどり着いた着想力とそれを徹底的にやりぬいた実行力、それがAmazonの強みということをあらためて感じる。

シリコンバレー精神 -グーグルを生むビジネス風土 (ちくま文庫)

シリコンバレー精神 -グーグルを生むビジネス風土 (ちくま文庫)

ここで決定的に重要なのは、「Web 1.0」時代とも言うべきネットブーム到来期に、グーグルは一社だけ人とは違うことをしていたということである。「Web 1.0」時代のネット事業とは、まずユーザーをイメージし、リアル世界に存在する産業の仕組み以上の利便性をネットで提供する競争だった。・・・<中略>全ての産業の効率がネットによって著しく向上するはずだという確信のもと、さまざまな試行錯誤が全米で繰り広げられていた。

・・・<中略>このことから私たちは何を感じ取ればいいのだろうか。

Web 2.0」時代の到来に狂奔する人々が多い今、「Web 3.0」時代を切り拓くであろう「いずれ次のグーグルになる若者たち」が必ずどこかに居て、他の人たちとは全く違うことを考えているに違いない、という想像力に結びつけるべきなのだ。

シリコンバレー精神』 〜文庫のための長いあとがき P.286、287〜

「あちら側」と「こちら側」に区切りをつけず、時代を切り拓くために、自らの進むべき道を依然として猪突猛進するAmazonGoogleももちろん刺激的だが、私の中では最近のAmazonも相当刺激にあふれる。今後の動向が非常に楽しみだ。

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