Thoughts and Notes from CA

アメリカ西海岸の片隅から、所々の雑感、日々のあれこれ、読んだ本の感想を綴るブログ。

シリコンバレーは4枚目のカードを手にすることができるのか?

シリコンバレー精神 -グーグルを生むビジネス風土 (ちくま文庫)

シリコンバレー精神 -グーグルを生むビジネス風土 (ちくま文庫)

シリコンバレー全体が目指すべき方向の合意(グーグルが切り拓いた道を追走する起業家たちが主役)、②それを後押しする潤沢な投資資金機関投資家ベンチャー・キャピタルが主役)、③出口で待つ豊富な資金(ネット列強やマイクロソフトらの大企業が主役)。この三枚のカードが、久しぶりにシリコンバレーに揃った。加えて米国企業会計改革法を少し緩やかにして、新興市場の株式公開への道を再び整備しなおそうという動きもある。それが加われば、ナスダック市場が主役の四枚目のカードが揃う。
シリコンバレー精神』 〜文庫のためのながいあとがきP.297〜

シリコンバレー精神』曰く、SOXがもう少し緩やかにならないと新興市場もなかなか活況を呈さないとのこと。この点について梅田さんのブックマークをたどって少し勉強してみた。

Tim states that Sarbanes Oxley is preventing early VC-backed company IPOs, and therefore there is a change taking place in the exit landscape, where private equity firms step in and buy out investors and founders at least partially – sort of as an alternative to a public market float.

SOX法により初期段階からVCが投資している会社はIPOがしにくくなっている。それ故に、公開市場から資金を調達する代わりに、非公開の投資会社に入ってもらい、既存の投資家や創業者の保持する株式を部分的にでも買い上げてもらうというようにExit Strategyにも変化が生じている。
OnHollywood: Panel on Exit Strategies for early stage companies - Buy, Hold, Sell

これは2枚目のカードまでは切ることができるが、SOX法があまりに厳しいので最終的に公開市場から資金を調達するのが難しくなっていることを指している。拡大して解釈するにポイントは2つあって、

  • SOX法のあおりを受けて何気に3枚目のカードという道も狭くなってしまっている。というのも、既に株式公開しているネット列強やマイクロソフトなどの大企業も例に漏れずSOX法対応が求められているため、彼らの傘下に入るということは、イコールSOX対応が求められるということだから。
  • 広く世間一般から投資を募る株式公開と比較し、特定の会社からの資本を受け入れるということは創業者の会社への影響力が相対的に薄まりやすく、それが故に調達できる金額も少なくなってしまう

という点は見逃せない。


で、SOX法のあおりがそんなに大きいのかというと下記のような意見もある。

we sort of joked about the efficiency of the Sarbanes Oxley regulation that is essentially scaring away from the public markets a generation of companies – hence reducing in a round about way the potential for fraud and abuse from these new companies.
まどろっこしいやり方で新興企業が不正をして投資化を欺きにくくしようとするあまりに、本当のところは公開市場で会社を作ることに恐怖すら覚えさせているSOX法なんて本当に効果があるのかと我々は冷ややかな目でみています。
Sarbanes Oxley's collateral damage: US public markets ?

要するにSOX法の適用というのは、性悪説にたって悪いことができないような仕組み・プロセス・システムを整備しようというもので、それがあまりに"重たく"、その重荷に身悶えている公開企業が多いので、株式公開に二の足を踏んでしまうということ。サーベンスとオックスレーの二人は、米国株式市場を"守る"ために投資家の信頼を取り戻そうと腐心するあまり、逆に公開企業を遠ざけ米国株式市場の魅力を下げている、と同じ記事の中で揶揄されている・・・。


でも、そこまで言いながらも記事の最後に下記のような但し書きがちゃっかりついている。

note that I am not suggesting that the fundamental reasonning behind Sarbox - transparency and accountability - is bad, quite the contrary. It just so happens that the current implementation of the regulation is a tax to US businesses because of its heaviness.
一言付け加えると、私は透明性と説明責任を求めようとするSOX法の根本的な背景が悪いと言っているわけではないし、むしろ逆である。現在の規制の実行は、言わばアメリカビジネスに対する税金なのである。

でも、この但し書きが思わずついてしまうというのが、SOX法の議論で非常に重要な点。
「ビジネスや技術革新の推進への注力を妨げるこんな重たいプロセスを強いるなんてとんでもない!」という不満を述べることができても、「じゃぁ、それ以外の方法で、高い透明性とグリップの効いた統制をどう実現するんだ!」という至極当然の問いに対する答えがでてくることはない。
走り始めてはみたものの、この議論はまだまだマドルスルー・・・。SOX法の重石で身悶えている身としてこの議論がどういう風に収束していくのか、「シリコンバレーは4枚目のカードを手にすることができるのか?」を注視していきたい。

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