Thoughts and Notes from CA

アメリカ西海岸の片隅から、所々の雑感、日々のあれこれ、読んだ本の感想を綴るブログ。

Googleのアニュアルレポートはスーツ組の悲鳴?

コーポレート・ガバナンス改革

コーポレート・ガバナンス改革

オリックスにも四月に新入社員が入ってきたが、五月も半ばを過ぎると新入社員は会社のことを「我が社」といっている。しかし私は「我が社」とはいって欲しくない。「我が社」といえるのは、オリジナルなお金を出した人である。「我が社」ではなく、アメリカのアニュアルレポートに書いてある株主に対する「Your Company」という表現が正しいと思う。日本企業も自分たちを中心とした「我が社」から、株主を中心とした「Your Company」へ意識を変えていく必要があるだろう。
『コーポレート・ガバナンス改革』〜第2章 P.54〜

こういう声は往々にして日本企業にむけられることが多いが、Googleにもこの声をむけてみたい。
"グーグルは「すごい」のか「すごくない」のか(財務的に見たGoogle)"を読んだながれで、"Googleの開示資料(10-K)"を英語の勉強がてら読んでいるのだが、さすがに自社のことは一番自社のことがわかるからなのか、Googleの利益の源泉や目指すものが平易な英語で書かれておりわかりやすい。


だが、その中の文章の中で思わず目を疑うものがあった。アニュアルレポートの中には"Risk Factors"という項目があり、企業のおかれている環境で将来的に発生しうるリスクについての記述が一般的にはされる。Googleのアニュアルレポートの"Risk Factors"の中では下記のようなリスクが記載されている。

If we were to lose the services of Eric, Larry, Sergey or our senior management team, we may not be able to execute our business strategy.
もし仮にエリック、ラリー、セルゲイや他のシニアマネジメントチームが会社をさったら、我が社の事業戦略は実行することはできない。

エリック、ラリー、セルゲイの3人がいなくなると、技術開発、素晴らしい企業文化の醸成、戦略的な意思決定をする力が弱まり、会社の事業に多大な損失を与えるとのこと。
この記述にものすごく違和感を覚えるのは私だけであろうか・・・。株主から会社経営の委託を受けているという立場の人間が自分達がいなくなったら会社経営が立ち行かなくなるかもしれないということをアニュアルレポートに書くのは一体どういう神経か。
百歩譲って創設者は許すとしても、CEOがいなくなったら事業戦略を遂行できなくなるかもしれず、それが経営のリスクとは傲慢にもほどがある・・・。

Our CEO and our two founders run the business and affairs of the company collectively, which may harm their ability to manage effectively.
我が社のCEOと二人の創設者は会社経営を共同で推進しますが、これが効率的な経営能力を害するかもしれません。

極めつけはこれ。重要な意思決定をする際はエリックとセルゲイとラリーが入念に協議を行うが、これが経営のスピード感を阻害するかもしれないと言った上で、さらに

In the event our CEO and our two founders are unable to continue to work well together in providing cohesive leadership, our business could be harmed.
CEOと2人の創設者が一緒にうまく仕事ができなくなり、連携のとれたリーダーシップを発揮できなくなると、我が社のビジネスは損失をこうむりうる

そんなことを言われて株主は一体どうすればいいのか・・・。会社経営の向上に向けて密に連携をとって迅速な意思決定をすることに表向きにもコミットをしない経営者なんて聞いたことがない。
まがりなりにも株主から巨額の資金を集めているわけだから、開示資料の経営リスクの欄に「僕たちの中が悪くなったら会社経営がうまくいかないかもわかりません」なんて書くなと言いたい。


まぁ、以上の私の意見はいわゆる一般的な株主と経営者の関係の視点で述べているわけなので、Google様はそういう常識があてはまらないかもしれないし、「Googleはそういう会社でしょ」というの既知の事実かもしれない。
要すればこのアニュアルレポートは、株主から経営を委託された経営陣が株主に対して自分の経営の成果を報告するという「オールド・エコノミー」の感覚であれやこれやと指摘すべきものではなく、Googleという会社のIR担当から株の保有者であっても会社の保有者ではない人に対して、アナリストのような立場で、グーグルの株を購入することのリスクを説明している資料ととらえるほうが妥当だし、Google経営陣もそういうスタンスなのだろう。

グーグル開発陣の感覚は、「リアル世界での軋轢の処理はスーツ側に任せるよ。軋轢をミニマムにするように、スーツ連中が適当に判断してやってくれていい」という感覚があるのではないかということです。

ギーク連中は、リアル世界とできるだけかかわりたくないと考える傾向にありますから、こうして、その部分の判断はスーツ側に任されます。
「グーグルをどう語るか」を巡って(2)

梅田さんの言葉を借りれば、「開示に伴い発生する、事務手続きなんてスーツ側が適当にやってくれ」という感じなのだろうが、

  • 適当にやるというスタンスにしてもスーツ側の対応はもうちょっとなんとかならんのか
  • 売上1兆円にそろそろなり、多くの国に展開しようという会社のCEOがここまで技術・M&A以外のことに無関心でいいのか

という点に多いに疑問を覚える。
この"Risk Factors"、約11,000ワードと膨大な記述がなされているわけだが、上記の引用以外の内容もあわせて考えるに、私にはこれは経営者の視点で予見される事業リスクを開示するというより、「ギーク連中」を尊重しながらも会社規模がそこそこのうちは何とかやってきたが、ここまで会社が大きくなるとそろそろ限界にきている、という「スーツ側」の悲鳴に聞こえてならない

"グーグルは「すごい」のか「すごくない」のか(財務的に見たGoogle)"で描かれている成長率をみてそれが現実的かどうかを評価する上で、需要や競合他社に対する競争力に対しRevenueがそこまで堅調に伸びるのかということより、その成長率に「スーツ側」が耐えられるのかというリスクのほうが私は気になってならない。


磯崎さんのエントリーのはてブコメントに「やはり買いか」というものがあったが、私はこんな「Your Company」という発想が1mmもないアニュアルレポートをだす会社の株は間違いなく買わない。

※追記
いくつか不勉強な点がありましたので下記のエントリーもあわせてご覧下さい。
Googleの資本構造とガバナンスのあり方について

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