Thoughts and Notes from CA

アメリカ在住、外資系企業歴30年の日本人会社員。 アメリカでの生活、海外での子育て、外資でのキャリア構築、そして現地に暮らして見えてきたアメリカ政治のリアルまで、日々の体験を通じて気づいたことをゆるく発信。 グローバルに挑戦する日本人が、少しでも勇気を持てるような発信を目指しています。

本の要約はなぜ頭に残らないのか - AIとYouTube時代の『バカの壁』

450万部の大ベストセラー『バカの壁』

養老孟司氏の『バカの壁』は、新書で450万部も売れた大ベストセラーだ。本離れが進む状況で、今後この記録が塗り替えられることはないだろう。

 

最近、読書の幅を広げて新書に手を伸ばし始めた息子が読んでいたので、私も遅ればせながらてに取ってみた。
人は、自分の理解できる範囲で世界を捉えてしまいがちな、「わかった気になりやすい」生き物だ。筆者は、自分の理解を疑わずに思考を止めてしまう有様を「バカの壁」と表現している。
このパワーワードを強力な武器として、450万部も新書を売ったのは驚異的だ。また、「売れている本はそれなりに面白いだろう」というある種の「バカの壁」に囚われて、私も本書をまんまと手に取ってしまった。

 

「わかったつもり」という思考の罠

本書は、真実というものはより深淵で、捉えどころがないという前提にたつ。その上で、五感を研ぎ澄まし、様々なことを体験して、自分に培われた直感や社会的な背景を総動員しようやく近づくことができるという立場をとる。一見まとまりに欠くと感じる読後感も、「バカの壁」とは何かということをじわじわ浮き立たせる筆者の狙いなのかもしれない。

 

本の要約動画が頭に残らない理由

本書を読みながら、YouTubeの本の要約動画が、なんで頭に残らないのかが腑に落ちてきた。
良書というのは、筆者が伝えたいことを、歴史的背景や様々な事実や視点とともに、多角的に捉えて、その主張を浮き上がらせる。これは言わば筆者の思考や人生の追体験である。

一方で、AIの要約やYouTubeの解説動画というのは要点がよくまとまっており、「わかった感じ」にさせてくれる。その反面、筆者の思考や人生の追体験という、主題を浮き上がらせるプロセスを大幅に省いてしまっているから、どうしても理解が浅くなってしまうのだろう。そういう点で、これらの現代的なツールは、新たな「バカの壁」を生み出す装置であると、きっと養老先生はご立腹であろう。

とは言っても本の要約チャンネルが悪いと言っているわけではない。それをきっかけに原書を読んでみるという人は多いだろう。また、自分の読んだ本の要約動画をみて、さらに多角的な視点を得るという使い方もできる。ただ、お手軽さを求めて要旨を動画を通してさくっと得ようとしても、その単発の動画からの知的インプットは少なくなりがちだ。

 

容易な評価を許さない手ごわい本

正直、私は本書が450万部も売れるほど評価される理由はよく分からない。が、本書が恐ろしいのは、その私自身の評価が「バカの壁」に囚われているのではないか、と自問を迫る構造を備えている点だ。
安易な評価を許さず、読み手に常に「自分の理解が十分か」を問いかける。この姿勢を読み手が読後に備えるならば、本書は良い本だという言えるだろう。「わかりやすさ」が最も求められる現代に再注目されて良い本だと思う。

 

現代版『バカの壁』のススメ

が、お年寄りの説教臭さと時代にそぐわないジェンダー感などが若者への別の「壁」となってしまうだろう。なので、現代的な文脈への焼き直し版があると若い人は手にとりやすいだろう。そして、その作業をやるのに意外と適切なのは「AI」であることは、何とも皮肉なことである。

Creative Commons License
本ブログの本文は、 クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(表示 - 非営利 - 継承)の下でライセンスされています。
ブログ本文以外に含まれる著作物(引用部、画像、動画、コメントなど)は、それらの著作権保持者に帰属します。