受け入れやすく、わかりやすいロジックだが、この意見に対して私はかなり疑問を覚える。
もちろん、人材が大切ではないなんて言う気はさらさらない。この買収を受けてYahoo!/Microsoft連合の市場における競争優位を築くかことに腐心する人材が多ければ多いほど、この買収の効果は高まるだろう。問題は、その要素が死活的に重要かということだ。
企業買収の目的というのはおかれた状況により色々ある。優秀な人材を獲得することが目的であったり、ブランド力を獲得することが目的であったり、規模の経済の追求が目的であったり、特定の製品やサービスの獲得が目的であったり、顧客基盤の獲得が目的であったりもする。で、今回の買収で死活的に重要なことは何かと言えば、私はブランド力となにより顧客基盤の獲得だと思う。現実的にこんな二者択一はありえないと思うが、「Yahoo!の顧客が丸ごと出ていき人材は丸ごと残る状況」と「Yahoo!の顧客が丸ごと残り人材は丸ごと出ていく」という状況のどちらがマシかと言えば、後者のほうがマシと思われる。
少なくとも検索市場において、MicrosoftがなかなかGoogleに追いつけないのは、Microsoftにおける人材不足が決定的な要因ではない。MicrosoftとGoogleの検索市場におけるブランド力の差が決定的な要因であることは間違いない。あのGoogleでさえ、未だに日本でYahoo!に後塵を排しているのはGoogle Japanの人材不足が原因ではなく、検索=Yahoo!というイメージとがっちり確立されたしまったYahoo!の顧客基板を日本市場において覆せないからだ。
私は、ある時は買収され、ある時は買収し、ある時は事業の一部を売却し、そしてある時は並列に事業を統合されたりして、かなり買収統合売却などの荒波にもまれてきたが、その経験から言えることは
- どんなに買収統合後の事業戦略が優れていても、去る人は去ってゆく
- どんなに優秀な人材であっても、買収統合後の事業戦略に納得せず、それに従って動かない人は、それ程重要ではない
- 買収統合後の事業戦略というのは、買収行為の前に時間をかけて練られるべきもので、いざ決まったら迅速に実行するほうが良い
ということ。
Yahoo!の人材がMicrosoftに残ることももちろん重要だが、今一番求められるのはこの世紀の事業統合で注目を集めている時点で、如何に魅力的で刺激的な統合戦略を発表し、徐々に確立しつつある検索市場を揺さぶることなんじゃないかと思う。