『そして、奇跡は起こった!』を読んだので書評を。
- 作者: ジェニファーアームストロング,Jennifer Armstrong,灰島かり
- 出版社/メーカー: 評論社
- 発売日: 2000/09
- メディア: 単行本
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臨場感あふれる描写と息をつくまもなく目まぐるしく変わる展開に引き込まれ、一気に読了してしまった。読み物としてはここのところ読んだ本の中では、断トツに面白かった。
「足元で甲板が割れ、大きな横梁がたわんで、銃声がとどろくような音を立てて折れていった。ふるえが走って、吐きそうになった」。クルミ割りにはさまれたクルミのように、船がつぶされていく。シャクルトンには、それを止めることができない。
その晩と翌日ずっと、攻撃は休みなく続いた。船尾はもぎ取られ、竜骨はくだかれた。甲板はへしゃげ、太い横梁がまるで小枝のようにパキパキと折れた。木が前方に流れ、重みで船尾が下がった。男たちは最後の力をふりしぼって、ポンプで水をくみ出していた。
十月二十七日の五時、ついにポンプ作業の中止が伝えられた。続けても意味が無いことは、もう誰の目にも明らかだった。船はこれ以上持ちこたえられない。シャクルトンは落ち着いた声で、全員に船を去るように命じた。
『そして、奇跡は起こった!』 〜氷の圧力 P.89、90〜
氷塊に閉じ込められたエンデュアランス号は最終的には南極圏の氷の圧力に押しつぶされ、隊員28名を氷の上に残して海に沈んでしまう。その後、シャクルトン隊は氷上にキャンプを設営し、時としてマイナス70度、秒速90メートルの爆風が吹き荒れる南極海に漂う氷の塊の上で5ヶ月近くを過ごすことになる。とても人間が生存できる環境とは思えないが、こうした極限の状況の中、28名が生存するために死力を尽くす様には心をうたれる。
また本書は、そういった読み物としての面白さだけでなく、リーダーシップ論、戦略論という点においても学びが多い。刻々と変わる過酷な環境、非常に限られたリソースの中で、生存と生還のために、様々な決断を繰り返していくシャクルトンの姿に、経営の教科書では決して学び取ることのできない「戦略の本質」を感じることができる。また、「かならず全員生還させる」という強い信念の下、ユーモアとオプティミズムを常に持ち続け、想像を絶する苦難をおそう隊員を率い、目的を完遂するシャクルトンの姿に、真のリーダーシップのをみることができる。
本書の面白さを伝えきれない自分の文章力がもどかしいが、ネットで話題のこの手の本以外は最近読んでないなぁ、という同年代の方には是非手にとって頂きたい。