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ktdiskのブログ

読んだ本の感想、所々の雑感、日々のあれこれを綴るブログ。

情報サービス産業におけるグロス・ネット

Column

先日書いた"日本のIT業界はなぜ重層的な階層構造をとっているのか”というエントリーには多くの方にアクセスして頂いた。そして、私にとっての何よりの収穫は多くの方にブックマークも含めコメントやトラックバックを頂いたこと。これらの貴重なフィードバックをもとに本件をもう少し深堀していきたい。


今回のエントリーでは、賛否のあったグロスとネットの問題についてもう少し細かくみてみたい。日本語でいうと「グロス=総額」、「ネット=純額」であり、ネットで参考文献を検索するならば、総額/純額という言葉を使用した方がヒット率は高い。ただ、ぱっと見わかりにくいので、本ブログでは引き続きグロス、ネットという言葉をつかっていく。


グロス・ネットの話は、ウェブで検索した限り、"「情報サービス産業」における監査上の諸問題についての解説”が一番まとまっている。グロス・ネットの判定指標が紹介され、その指標が示す事実関係と状況に基づき、総合的に判断すべきと提言されている。総合的に判断と言っているのは、項目をいくつを満たせばグロス計上できるとかいう単純な話ではなく、個別の案件の取引形態や各指標毎の度合いを評価して最終決定しましょうということ。

売上をグロスで計上する指標
(1) 取引において主たる債務者(ユーザーに対してサービス責任を負う者)である。
(2) 商品受注前又は顧客からの返品に関して一般的な在庫リスクを負っている。
(3) 自由に販売価格を設定する裁量がある。
(4) 商品の性質を変えたり、サービスを提供することによって付加価値を加えている。
(5) 自由に供給業者を選択する裁量がある。
(6) 製品やサービスの仕様の決定に加わっている。
(7) 商品受注後又は発送中の商品に関して物的損失リスクを負担する。
(8) 代金回収にかかる信用リスクを負担する。

売上をネットで計上する指標
(1) 供給業者が契約の主たる債務者である。
(2) 会社が稼得する金額は確定している。
(3) 供給業者が信用リスクを負う。

また、新日本監査法人のページの”第1回:ソフトウエア取引の収益認識”でも、ネット計上の指標が紹介されており、これまた参考になる。

売上をネットで計上する指標
(4)付加価値がほとんど加えられていない機器やパッケージ・ソフトウエアの取引
(5)受注制作ソフトウエアにおいて、第三者であるパートナー(協力会社)にそのプロジェクト管理のすべてを委託している場合の当該ソフトウエア開発に関する取引
(6)製品の仕様(スペック)や対価の決定に関与していない場合の取引

新日本監査法人のネット計上の指標のほうが、一部の方の琴線にふれそうな生々しい表現にあふれている点は見逃せない・・・。あなたのプロジェクトの元請はグロス計上できそうですか?


上記、2つの引用から、情報サービス産業において、売上の計上をグロスでするのか、ネットでするのかは、監査情報の課題としてホットなトピックであることは理解して頂けると思う。


次に、ブックマークで本件についてコメントを頂いたので、それに対して回答をしてみたい。

グロス・ネットの話がひっかかるんだけど、外注比率によって計上する売上金額が変わる会社なんて存在するの?内部評価の話かなんかを勘違いしているのかな
http://b.hatena.ne.jp/jujubea/20090203#bookmark-11925429

まず、前回のエントリーでは外注比率が90%を超える場合は、「ほぼ無条件」にネット計上と書いたが、よくよく思い出してみると「ほぼ無条件」というのは誤りだった(すみません・・・)。グロス・ネットの判定基準は十数項目あり、外注比率はその一つの項目に過ぎず、90%を超える場合でも、グロス計上されるケースは多々あった。
ただ、上記で紹介している「(4)付加価値がほとんど加えられていない機器やパッケージ・ソフトウエアの取引」や「(5)受注制作ソフトウエアにおいて、第三者であるパートナー(協力会社)にそのプロジェクト管理のすべてを委託している場合の当該ソフトウエア開発に関する取引」のような基準はかなり厳格に適用されていた。なので、「外注比率のみでは売上金額は変わらないが、グロス・ネットの判定基準における重要な指標ではある」というのが私の回答になる。

グレーもなにも、少なくとも財務会計をネットでやってる会社なんてひとつも知らないんだけど・・・/ 見積もり甘くて、外注への支払い120円、客からの入金100円になったらネットではどうなるんだろうねぇ?
http://b.hatena.ne.jp/andalusia/20090202#bookmark-11925429

「100円で仕入れたサービス・ソフトなどを105円で売ったときに、売上を105円計上するのがグロス、5円しか計上しないのがネット」*1という記述に対するコメントと思う。
もう少し詳しく例示すると、例えば下記のようなケースが考えられる。

  • お客様への請求は105円
  • パートナーへの支払いは100円で、それに対応する売上は101円
  • 自社のコストは3円でそれに見合う売上は4円

この場合、グロスで計上するなら、売上は105円、利益2円の利益率1.9%、ネットで計上するなら、売上は4円、利益1円の利益率25%、となる。なので、見積が甘くパートナーへの支払が結果として120円になり、お客様からの入金が105円のままの場合、売上金額はグロスでもネットでも別に変わらない。コストが最終的に120円になったところで、認識できる売上はお客様から頂く105円であることに変わりはない。工事進行基準で売上を計上するとしたら、この場合は60円コストを使った時点で52.5円しか計上されないにすぎない。なお、プロジェクトがオーバーランをした場合にそのリスクをとるという取引形態になっている場合は、単なるスルー取引ではないため、グロス計上できる可能性は高くなる。


グロス・ネットの問題が重層的な階層構造にどれだけ影響を及ぼすと言う点については議論の余地は確かに十分にある。だが、想像力を働かせて、グロス・ネットがかなり厳格に適用される法案が制定されたら何がおきるか考えてみると、情報サービス産業の一部の会社からはかなり強烈に反対の声があがることは容易に想像はつく。そう考えるとやはりグロスネット問題というのは重層的な階層構造の一つの要員と考えるのがフェアではないだろうか。

*1:わかりやすくするために、こういう記述の仕方をしたが、全てのケースでこのようになるわけではない

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