Thoughts and Notes from CA

アメリカ西海岸の片隅から、所々の雑感、日々のあれこれ、読んだ本の感想を綴るブログ。

『ウェブ時代をゆく』の生み出す乱反射

ウェブ時代をゆく』を読んだので書評を。


ウェブ時代をゆく ─いかに働き、いかに学ぶか (ちくま新書)

ウェブ時代をゆく ─いかに働き、いかに学ぶか (ちくま新書)

インターネットを取り巻く環境と足元で起きる時代変化を的確な表現で浮き彫りにするというのが『ウェブ進化論』での取り組みであったが、『ウェブ時代をゆく』では、その到来する新しい時代において個々人がどのようにキャリアを形成し、生き抜いていくかについての梅田さんの想いが語られている。
読者個々人のキャリア形成における行動規範にインパクトを与える程の力があって初めて、本書は読者より高い評価を勝ち得る。その点で多くの読者にインターネットに関連する日々のニュースを読み解く新しい視座を提供することにより高い評価を得た『ウェブ進化論』と比較するとその目標は非常に高く、書籍としての完成度の基準もかなり厳しい。
自分の読後感に率直に従えば、書籍・知の体系としての完成度はやはり『ウェブ進化論』に軍配が上がる。その理由を色々考えてみたが、それは上述したように両書のカバーする守備範囲の違いに起因するものであろう。「いかに働き、いかに学ぶか」というテーマはそれだけ広範で、体系化や一般化が難しい。だからと言って本書の価値が『ウェブ進化論』より低いなどと言うつもりは毛頭ない。何故ならば、32歳の私が今欲しい情報・示唆がどちらに多く含まれているかという基準で評価すれば、間違いなく本書に軍配があがるからだ。

レールがあると思っていても、実はそのレールがどこまで続いているかなんて誰にもわからない時代である。だから、迷ったとき悩んだときには、時代の大きな流れに乗った新しいことにあえて巻き込まれてみる、そしてそこで試行錯誤を繰り返してはその先の可能性を手探りしていく。変化の激しい時期ならではのそんな生き方も、あんがい自由で楽しいものだ。
ウェブ時代をゆく』 〜あとがき P.243〜

上記は三度読みした中で、私が最も好きな一節。
本書は、大組織でキャリアを歩むことを否定するものではないし、小組織/ベンチャー企業/個人事業主を手放しに礼賛するものでもない。設備、人材、資本など従来は一定規模の組織でないと十分に提供されなかった資源が、テクノロジーの変化や経営環境の変化によって、より力の弱い存在にも提供されやすくなったことを具体例とともに解説し、キャリアのオプションが多様化したというのが本書の立ち位置。
この辺りは、梅田さんのバランス感覚がよく表れているし、『ウェブ進化論』のインターネット上の反応を全て読んだ結果からか、前回以上に注意深く書かれているなぁ、という印象をうけた。ただ、客観性が注意深く貫かれているが故に、「けものみちをどのように進むか」というHow toまでは記載されても、「けものみちと高速道路のどちらに進むべきか」という筆者自身の本音の本音が吐露されている箇所は殆どなかったように思う。もちろん、それを語ることが本書の目的ではないことは百も承知だが、「大組織に所属する社員向けに敷設されている高速道路」、「特定のプロフェッショナル向けに敷設されている高速道路」という選択可能なオプションをあえて捨て、自らの意思で「けものみち」を歩んでいった梅田さん自身の理屈抜きの嗜好にもっと触れてみたかったという欲求は少なからず私の中に残った(敗者復活ではなく、積極的に「けものみち」を選択したという点に大きな意味があると思う)。なので、「あとがき」に記載されている上記の引用は本音がぽろっとでている箇所であり、清清しい好感を強く覚えた。


上記の印象は、私自身の現在のキャリアに対する考え・悩みを鏡のように反映したにすぎないし、本書の印象は、読書それぞれがおかれている状況によってきっと異なる。そういう点で、本書は『ウェブ進化論』以上にインターネット上で乱反射を繰り返すことになるだろう。今回のエントリーではコンテンツそのものにはふれなかったが、その多様な乱反射にふれることができるという点とタイミングをずらした二度読み、三度読みで都度自分を写しだすことができるという点の2点だけでも、私は強く本書を推薦することができる。

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