Thoughts and Notes from CA

アメリカ西海岸の片隅から、所々の雑感、日々のあれこれ、読んだ本の感想を綴るブログ。

ビールのロングテール

クリス・アンダーセンの"The Long Tail of Beer"というエントリーを読んだ。タイトルだけみたら、

  • アメリカには小規模な地ビールメーカーが無数にある
  • 従来はその地域に実際に行かないとそういった地ビールを楽しむことはできなかった
  • 最近は"地ビール.com"のようなサイトができ、各醸造所の口コミ情報やビールのタイプがタグ付けで整理されている
  • そこにいけば好みの地ビール、以前旅先で飲んで美味しかったけど名前を覚えていないビールなどを見つけることができる
  • "地ビール.com"には、おまけにビールについてのうんちく満載のWIKIサイトもセットでついており、そこで勉強した知識を元にお勧めのビールを発注することもできる
  • 地域限定販売色の強かった地ビールも全国区で楽しむことができるようになった
  • 薄いソーダ水のようなアメリカのビールを誰もが好きでないことがインターネットの力によって明らかになった
  • 鮮度を保ちながら合衆国全土に配送するインフラを如何に整備するかが今後の課題

とか、そんな話が書いてあるのかと妄想したのだが、読んでびっくり。


"The long tail of the alcohol distribution curve"という記事を紹介して、

Beer giant Anheuser-Busch recently created a new division called Long Tail Libations. The goal? To find more "niche" alcohol products to supplement the company's "hits".
ビールの巨人アンハイザー・ブッシュ社はロングテール酒造なる新しい部署を設立した。同社のヒット商品を補完するニッチなアルコール商品をもっと見つけることを目的とする。

アンハイザー・ブッシュとはバドワイザーの会社。ヒット商品を補完する商品を見つけるとのこと・・・。で、

As the president of Anheuser-Busch's U.S. beer operations pointed out, "We will have to re-evaluate our business model going forward in terms of expanding beyond beer and broadening our position within the total alcohol industry.
アンハイザー・ブッシュのビール事業のトップは、「単なるビールメーカーという枠を超え、アルコール産業全体におけるプレゼンスを高めるという視点で、我々はビジネスモデルの再評価を推進する必要がある」と主張している。

とおっしゃっている。これは単なる事業の多角化ではないのかと・・・。ロングテールという流行言葉でそれっぽい雰囲気を醸しだそうとしているだけではないのかと・・・。


おまけにそのロングテール酒造なる事業部の初めての製品が「ジキルとハイド」。赤いジキル(甘いワイルドベリーのお酒)と黒いハイド(ハーブのお酒)は混ぜて飲んでも、別々に飲んでもよし。一部の地域で試験的に既に販売済みとのこと。「ジキルとハイド」という商品のセンスについてあえて触れないが、売れそうか、売れなさそうか、試験販売とかするあたりが、実に普通のマスマーケティング的発想でげんなりしてしまう。まさか、テレビでCM流さないかと心配でならない・・・。


ロングテール市場というのは、資本力を活かしたマスマーケティングの奔流に飲み込まれて、今まで出会うことのなかった、レアな嗜好を持った消費者とそれに応える製品・サービスを提供する供給者が情報伝達コストの低下を追い風に出会うことによって生じるものである。
大企業がそこを狙うのであれば、個別商品の売上の総量ではなく、商品の種類の総量で勝負をするか、その企業のインフラを活かした消費者と供給者のマッチングサービスで勝負をするかのいずれかしかないのではないか。


アンハイザー・ブッシュが仮にロングテールの市場を狙うのであれば、

  • 資本力を活かして、地ビールの小さな企業をばしばし買収して、同社の持つ物流網を活かしながら、ビールにおけるロングテールを掘りおこす
  • グローバル企業であることを活かし、世界各国の酒造メーカーと提携し、アメリカではまだ余り飲まれていない各国の酒を品質をきちんと保った形で安価に販売するサイトを構築する
  • 資本力を活かして、試験販売なんてやらず、年間100種位の新しいお酒をがしがし市場に投入してみる

とかそういうやり方をとるべきなのではないだろうか(あくまで、仮にロングテールを狙うのであれば)。上記のアンハイザー・ブッシュのアプローチは、日本でいうチューハイみたいな市場を見つけようとしているだけで、そういうのはロングテールとは言わないのではないかと思う。


アメリカのエスタブリッシュな企業のロングテール市場戦略。これが単に時流にのっかったしょうもない戦略なのか、私の理解・想像をはるかに超える造詣に溢れた一手なのか今後みていきたい。

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