かけもち系起業家は、個別の案件の有望性を考えて、自らの人的・知的リソースを投じている。複数の案件に首を突っ込むことで分散投資が実現する。
竹内さんのブログで、昨今の起業家はリスクヘッジも兼ねて、自らの才能・時間・能力を複数に分散投資するという話が紹介されておりなかなか面白い。起業の聖地シリコンバレーでは、「創業時に兼業するなんて・・・、最近の若い者は・・・」と嘆いたり、「あぁ、自分が若い時にそんなことができるインフラがあれば・・・」なんて羨んだりするお年寄りがいるのだろうか。
私の素人くさい第一印象は、「やらなければならないことがてんこ盛りで、限られたリソースで本当になすべきことの優先順位を戦略的につけている、創業間もないベンチャー企業が、自社の事業以外にそのリソースを投入するなんてありなのか?」というものだった。ただ、ちょうど読んでいたドラッガーの『テクノロジストの条件』の下記の記述をみて、物理的に可能であれば才能を分散投資すればよいし、才能が光っていれば光っているほどそのほうが投資効果が高くなるとも思えてきた。
ベンチャーが成功するのは、多くの場合、予想もしなかった市場で、予想もしなかった客が、予想もしなかった製品やサービスを、予想もしなかった目的で買ってくれるときである。ベンチャーはこの事実を踏まえ、予期せぬ市場を活用するようみずからを組織しておかなければならない。テクノロジストの条件 (はじめて読むドラッカー (技術編))
- 作者: P.F.ドラッカー,上田惇生
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『テクノロジストの条件』 〜6章ベンチャーのマネジメント P.96,97〜
上述のPhraseは、当初想定した狙い通りの市場を創出できるなんてことは極めてまれで、起業の成功は力のある製品やサービスから思わぬ「事業の芽」がまず生まれるか否かにかかっているということを示唆している。
また、萌芽した「事業の芽」を見逃さない優れた眼力こそが創業者に求められることであり、それが起業家の非凡さの源だとすれば、やはり筋の良い種を複数蒔いたほうが、その才能を発揮する機会に恵まれるのだろう。
そういった複数の創業にかかわるという「起業家の兼業」が許されるようになった背景としては、創業時の資金需要が減ってきており、投資家が創業者に対して事業に対する100%のコミットメントを求めづらくなっているということも背景にあるのだろう。
また一方で、創業者が自分が本当に才能を発揮できる一転に集中すべく、創業時のどたばたを切り盛りするスキル溢れるタレントが創業メンバー内にいたり、VCから投入されたりされるインフラが整っているという起業の聖地特有の事情もあるように思う。「創業時にして分業を可能にする起業インフラ」、やっぱりシリコンバレーは先の先をいっているんだなぁと感じた。