この6月にノースカロライナからカリフォルニアに引っ越すわが家。引越し先の住まいをどこにするかが、今の一番の家族の関心事。アメリカの家選びは、子供が学校に通う場合は、まずは学区選びから始まる。”Great!SCHOOL.org”というサイトは、アメリカの公立学校の情報が、学校ごとに非常にわかりやすくまとめられており、学区選びと学校選びにはかかせない情報源だ。
勉強の進捗具合、テストの点数、授業内容などの情報が10点満点で個別に評価されており、こういった得点の高い学校は、授業と生徒の質ともに良いので、なるべくそういう所にいれてあげたい、というのが親心。少なくとも総合得点が8点以上のところを私は探すようにしている。
そして、勉強面と同様に大事であり、最終的な決め手となるのが「 Student Demographics」という項目だ。要するに「民族・人種・ジェンダーなどの多様性」だ。いわゆるアジア系の移民である、わが家にとって、一定以上の学校の多様性が確保されていることは、差別を受けずに、子どもたちが交友関係を広げ、楽しく学校生活をおくるために、死活的に重要である。
ちなみに、私の娘が今通っている高校の統計が下記の通りである。いわゆる白人が半分以下であり、アジア系が3割を占めるので、ここの高校はかなり多様性が進んでいると言える。家の近くに米企業の研究開発機関の集積があり、そこで様々な人が働いていることが、この多様性の背景にある。
一方で、下記が引越し先の候補となっている高校の統計。地域柄、現在の娘の学校と比較すると、多様性の度合いは少し下がる。とは言っても、2020年の国勢調査での全米の白人比率は62%であるため、白人に偏っているというところは全くなく、悪くはない。
前職の上司に引っ越しをする上で助言を求めた際も下記のようなことを言われた。
いいか、ウェブサイトで校長が言っていることをうのみにしちゃいけない。彼らが”わが校は多様性を重視しています”なんて言ったところで、そんなことはくそったれだ。引越し先に出張の機会があったら、生徒の当校時間にその学校に行って、自分の目で確かめるんだ。白人の比率がどれくらいなのか、生徒たちの雰囲気はどんな感じなのかを、その目で見てみろ。8割以上が白人の高校になんか行ってみろ、お前さんの娘は友達なんて一人もできないぞ。
彼はインドからの移民であり、私よりずっと長くアメリカで生活をし、子供を育ててきているので、折にふれて相談をするのが今回も貴重な助言をえることができた。
先日、実際に出張の機会があり、彼の助言を受けて、候補となる高校に妻と一緒に行ってきた。当校時間というのは絶え間なく生徒が学校に入っていくし、授業開始前に雑談にふける生徒たちの雰囲気を感じることができる、絶好のタイミングで雰囲気をよくつかむことができ、良い判断材料をえることができた。
アメリカ生活が長いので、「Students Demographics」を確認するという発想はすっと受けれることができるのだが、よくよく考えてみると、これはアメリカで暮らす移民独特の発想な気する。長いアメリカでの生活の中で、自己防衛本能として
- 可能な限り差別を受けない、快適な環境で暮らすにはどうしたら良いか?
- 移民に対して肯定的な見方をする人と否定的な見方が混在する社会で、なるべく肯定的な見方をする集団に身を置くにはどうしたら良いか?
ということに常にアンテナをはっているのだろう。
先日読んだ西山隆行氏の『移民大国アメリカ』は、そんな自分の移民としてのアメリカ社会における立場を考える上で、様々な示唆を与えてくれる良書であった。
- 米国政府の移民政策の歴史を俯瞰しつつ、
- 民主党と共和党の党派を超えて政策見解の分かれるこの問題の争点を整理し、
- 教育、社会福祉、犯罪などの様々な観点から、課題を炙り出しつつ、
- トランプ現象の示唆するところを歴史的、政策的視点から見つめる
という盛りだくさんの内容だが、私事として皆周りにある問題を考え直すのに非常に良い機会となった。最後に本書から下記の引用をしたい。
アメリカン・ドリームを夢見てやってくる移民は、一方で共通の過去を思い起こさせ、アメリカの価値が優れていることを再確認させてくれる存在である。その一方で、移民は新しい社会問題を惹起し、時にアメリカの価値観を掘り崩す危険性を持つ存在と見なされてきた。
移民は、アメリカの文化を豊かにし、経済発展にも大きく貢献している反面、アメリカ文化をないがしろにし、アメリカ人から職を奪い、経済的なダメージを与えるという相反する性質を内在しているのは確かだ。だが、新しい土地に飛び込み、そこでチャレンジをするというのは、アメリカの価値観そのものであり、様々な問題は引き起こしつつも、そのものを否定することはできなく、揺れ動くアメリカの現状がよく描写されていると思う。アメリカに住む日本人の方には強くおすすめしたい良書だ。