Thoughts and Notes from CA

アメリカ西海岸の片隅から、所々の雑感、日々のあれこれ、読んだ本の感想を綴るブログ。

『いま中国人は中国をこう見る』 成長を続ける中国のリアル

アメリカの研究機関が「中国と言われて、一番始めに頭に浮かぶのは?」という問いを通して、アメリカ人がもつ中国に対するイメージの調査をしている。

  • 検閲や人民統制などの人権問題
  • 世界の工場や高い経済成長などの経済力
  • 独裁国家や全体主義という政治システム

案の定、人権問題、経済力、政治システムというのが質問に対するアメリカ人の答えのトップ3としてあがってきた。このイメージは日本人が持つものとかなり近いのではないだろうか。即ち、多くの民主主義国家が同様の見方をしていると見ることができる。

 

私は、中国人の同僚が沢山いる。アメリカで永住権をとっている人もいれば、今現在中国に住んでいる人もいる。彼らと仕事をしていて、人権問題を抱えた独裁国家の圧政に悩む悲痛さを感じたことは一切ない。誰もが、礼儀正しく、きちんと誠実に仕事をこなし、極めて常識的な感覚を備えている。「中国ってどんな国?」と聞かれた湧くイメージとは全く異なる彼らに接すると、本音のところでは中国の方々は自分の国や政治について、どのような考えを持っているのだろう、という興味が湧いている。

 

本日紹介する『いま中国人は中国をこう見る』は、そんな疑問を見越してか、タイトル通り「いま、中国人が中国をどう見ているのか」ということを惜しげもなく紹介してくれる。

本にも旬があるが、本書は今が正に読み頃である。扱っている題材も「コロナを抑え込んだかに見えたが、感染が再拡大し、自身の打ち出したゼロコロナ政策とその是非に揺れる中国」、「中国におけるZ世代と年配層の意識の差」など、フレッシュな話題と視点がてんこ盛りである。

 

内容について2つほど興味深い視点を紹介したい。

1つ目は、「このコロナ禍を通して、中国人の民主主義の先進国に対するイメージに大きな変化があった」という点だ。経済成長を続け、今や世界第2位の経済大国になった中国。1位と2位と順位は近いものの、そうは言っても世界のナンバーワンであるアメリカに対して、ある種の憧れをもっていた中国人は多かったようだ。が、このコロナ禍を受けて、その憧れが失望に変わり、民主主義の仕組みについても市井の人から大きな疑問がおこるようになったという。

アメリカのコロナの死者数は既に100万人を超えている。一方で中国の現在の死亡者数は5千人を少し超えるくらいだ。実際にはもう少し多いのではないか、という疑念はあるものの、感染者数、死亡者数ともに他国と比べて圧倒的に少ないことは疑いもない。それは、かなり強硬な行動制限や政府の規制の成果であることは明らかだ。賛否両論は勿論あるが、国民の政府のコロナ対策への評価は全般的に極めて高く、コロナ政策を通して支持基盤が圧倒的に強くなったというから興味深い。

アメリカに代表される民主主義国家は、法整備や合意形成に時間をとられているうちにあっという間に感染拡大してしまった。その一方で、トップダウンの政策で厳しい行動制限を課して、世界で一早く封じ込めに成功したことを目の当たりにし、描いていた民主主義への憧れのイメージががらがらと崩れ去った中国人が多い、というのはなかなか興味深い。とある中国人の政府とその政治システムへの評価が面白かったので、下記の通り引用する。

日本では、中国政府は国民のことなど考えず、何事も強引に推し進めるというイメージを持っている人がいるかも知れませんが、政府は、この政策は国民からある程度支持されるだろうとわかっているから、やっているのです。<中略>

選挙で政権を選択するという政治制度が実質的に存在しない中国では、かえって世論の支持を得られなければ、政府の正当性について国民から認められない、ということだ。

 

上記に加えて、中国のZ世代は、中国製品に「安かろう悪かろう」ではなく、「中国製は、格好良く、デザインがよく、世界で一番オシャレ」というイメージを持っているという話も興味深かったので、紹介したい。

現在の中高年くらいの中国人は、日本製の製品に対して未だにある種の憧れを抱いているが、若いZ世代は真逆のイメージを持っているらしい。というのも、Z世代を主要な顧客層とする現在の中国の新興ブランドの経営者たちは、欧米への留学や旅行経験が豊富で、世界のトレンドに対して敏感であると共に、中国の若者の心をつかむマーケティング手法も熟知しているという。また、中国製は品質が悪いというのも今や昔の話で、世界の工場として世界中の企業の製造を引き受けたノウハウが蓄積されており、高品質な製品を作り出す土台が形成されているという。

また、中国人は価格に対する感度が日本人とは違うという。日本人は良いものであっても安値でお買い得であることにこだわりがちだが、今の中国人は良いものは高くて当然であり、高いお金を支払うという文化があるようだ。最先端のトレンドへの感度と高い製造技術、そして価値あるものに高値を払う成熟した消費者が、中国企業をより強くしているという評価は、私には驚きでありつつも、非常に納得がいくものであった。スマフォ決済が隅々まで浸透し、今や世界のデジタル経済を牽引する中国は、侮るどころか、これから追いかけなければならない存在である。

 

本書で紹介される中国人の声は、都市部の最先端の人々に限ったものでは決してない。正に市井の人々の生の声であり、現代の中国社会を投影している。勿論、現在の中国の政治システムに対する不満や不安も合わせて紹介されており、いまの中国のリアルを理解するには絶好の良書だ。本書を読めば、中国の経済成長が人口増にだけ支えられているわけではないことがわかり、学んだり、参考にできる部分が沢山あるはずだ。

日本人が考える中国人の幸福は、ネットに習近平氏の悪口を堂々と書けることかもしれませんが、私たちはそうは思いません。

毎年収入が上がって生活が安定し、去年よりも今年、今年よりも来年はもっといい生活が送れること、これが中国人にとっていちばんの幸せなんです。

硬直して機能不全だらけの日本の民主主義と低迷と衰退の渦中にある日本経済を考える示唆にあふれているので、是非多くの方に手にとって頂きたい。

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