Thoughts and Notes from CA

アメリカ西海岸の片隅から、所々の雑感、日々のあれこれ、読んだ本の感想を綴るブログ。

「好きなことを仕事にする」ために必要なこと

私は仕事が嫌いではない。若干前近代的ではあるが、仕事の高いハードルを超えた時の達成感というのは格別であるし、仕事を通して築いた人脈というのはかけがえのない資産だ。また、培ってきた専門性を活かしながら成果を出すのは楽しくもある。だが、「好きなことを仕事にしている」かと聞かれれば、決してはそうは言えない。というのも、今の仕事に面白みを見出すことはできているが、それそのものが好きであるわけではないからだ。「好きなことを仕事にする」というよりも、「自分が得意でお金を稼げる」ことをやりつつ、その良いところを見つけて付き合っているという方が正しい。「好きなことを仕事にする」ことができればそれが一番よいが、最近はそうでなくても良いか、という気持ちになっている。生活の糧をえるためには、いずれにしても嫌いや苦手とも付き合っていかなければならないからだ。

 

「好きなことを仕事にする」という字面はそもそも誤解を招きやすい。というのも、この言葉の響きから、好きなことだけをして、嫌いなことはしなくても良いというようなイメージを人に与える。だが、これは残念ながら全く違う。「好きなことを仕事にする」ためには、それを成り立たせるための多くな好きなこと以外をやらなければならない。その中には当然自分の苦手や嫌いも入っている。「好きなことを仕事にした」もののそれが続かない人は、この点についての誤解があるのではないだろうか。

 

先日、佐藤友美さんの『書く仕事をしたい』を読んだ。「書いて生きるには文章力”以外”の技術が8割」という言葉で帯が飾られている通り、ライターという仕事の「書く以外の仕事」について網羅的かつ具体的に解説がされている。

  • ライターは、どんな生活をして、どのくらいの稼げるのか
  • 取材の仕方や企画の立てから、売り込みをして仕事を取る方法
  • 編集者との付き合い方からスケジュールの管理の仕方
  • 書く仕事で生きていくことについてのもろもろ

など、とにかく筆者の「ライターとしての生存戦略」が余すところなく開陳されている。「さすがライター!」というわかりやすい表現で、頭にすっと入ってくる構成は見事で、300ページというボリュームを一切感じることがなかった。

 

本書は、ライターという仕事に興味のある人だけでなく、「好きなことを仕事にしたい」と思っている若者には是非読んで頂きたい。本書では、「書く」という自分が好きなことを仕事にするために、「書く」以外の8割の技術を総動員して、生き残ってきた筆者の姿が生々しく描かれている。これを読めば、「好きなことを仕事にする」ためには、そのために嫌いや苦手なことにもそれ以上に取り組んでいかなければならないという現実が理解できる。

 

 

書く仕事がしたい

書く仕事がしたい

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これまでたくさんの書き手の卵さんたちにあってきましたが、書き始めることはできても、書き続けられない人が辞めていきました。

依頼される仕事だから、書きたいものだけを書くわけではありません。対象をどう好きになるか。どう面白がるか。どう愛するのか。それができないと書き続けられないのです。

『書く仕事をしたい』

筆者はライターという仕事をするにあたり、書く技術は「上手くて、面白い」というレベルに達していなくても十分に成り立ち、「間違っていなく、わかりやすい」が満たされれば十分という。それよりむしろ、書きたいものだけを書くわけでない中で、「書き終える」ということを続けることの方がずっと大事ととく。全体の2割を占める「書く」ということにおいてさえも、書きたいものだけを書けるわけではないのだから、他の8割については言うまでもない。

 

人生百年時代と言われており、「好きなことを仕事にする」ということは今後ますます注目されていくだろう。それそのものは良いことだと思うし、私自身も細く長く働くために、なるべく多くの時間を「好き」に使えるような仕事の仕方を模索していきたい。が、趣味の範囲でやるなどの場合はさておき、生計をためるためにはそれなりの時間を自分の嫌いや苦手にも振り分けなければならない。「好きなことを仕事にする」ために、「嫌いや苦手にも果敢に取り組む覚悟」を持つこと、それが「好きなことを仕事にする」ために必要なこと、と私は考える。

 

 

 

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