Thoughts and Notes from CA

アメリカ西海岸の片隅から、所々の雑感、日々のあれこれ、読んだ本の感想を綴るブログ。

『感染症の世界史』 感染症と人類発展の歴史

新型コロナウィルスの猛威により、2020年5月9日時点で感染者数は400万人を超え、亡くなった方の数は28万人にも及ぶ。SARSについては、2003年9月26日にWHOが発表した限り感染者数は8,098名で、死亡者774名というから、正に桁違いのインパクトである。歴史を紐といてみると、地震、台風、津波などの災害の中で過去に最も人類を殺してきたのは感染症だという。このコロナ禍において、感染症の歴史を学び、それに学ぶのは大事と考え、『感染症の世界史』と『感染症対人類の世界史』の二冊をとってみた。

感染症の世界史 (角川ソフィア文庫)

感染症の世界史 (角川ソフィア文庫)

  • 作者:石 弘之
  • 発売日: 2018/01/25
  • メディア: Kindle版
 
感染症対人類の世界史 (ポプラ新書)

感染症対人類の世界史 (ポプラ新書)

 

 

 

本のタイトルも内容も似通っているが、両書は趣がかなり異なる。前者は、環境研究者である石弘之氏の著。コロナ禍以前に執筆された本で384ページに感染症の世界史がてんこ盛りに記載されており、大変読み応えがある盛りだくさんの内容となっている。後者はお馴染み池上彰氏とジャーナリスト増田ユリヤ女史の対談本。コロナ禍にあわせて出版され、タイムリーであると共に興味のあるポイントが簡潔にまとめられているので、子供でも読める手軽さが売りだ。

 

各国で国による外出制限令がだされるこのコロナ禍は、今を生きる我々は誰も経験したことのないものだ。私の住む米国では、今年度中の学校の開校は見送られており、在宅勤務が解除され、いつオフィスにいけるか目処もたたない。メディアでは、「昨日は新たに何人の感染が発見された」ということが毎日報道され、私の友人でもしばらく外にでていないという人も結構いる。「この異常事態はいつ収束するのだろう」と多くの人が思っていることだろうが、「東ローマ帝国は200年もの間、繰り返しペストが流行し、人口が激減した」、「20世紀初期のスペイン風邪により、5千から8千万人の人が死亡した」などの歴史を学ぶと、我々が直面している異常事態は、人類の歴史では何度も繰り返されてきたことであり、受け止めなければならない日常なのだと謙虚な気持ちになれる。

 

また、文明の発達にあわせて感染症との戦いが激化してきたという歴史も非常に興味深い。「ペストの起源は中国にあり、シルクロードにのって世界中に拡散した」「大航海時代を経て、中南米のアステカ・インカ帝国に天然痘が持ち込まれ、侵略戦争を遥かに上回る人々が亡くなった」など、交通網の整備とグローバル化に伴い、一つの地域で発生した感染症が世界中に拡散した例は枚挙に暇がない。また、「新興感染症の75%は動物に起源があり、人類に居住地域の拡大にあわせて未知の病原体の拡大が広がった」というのも非常に興味深い。麻疹、天然痘、結核、インフルエンザなどは全て動物由来であり、家畜による食物生産で飢餓という問題を克服しつつも、それそのものが感染症の震源になって多くの人を殺しているという事実に、文明の発展はプラスの面ばかりではないことが学びとれる。

 

両書からの学びとして最も興味深かったのは、感染症に人類は苦しめられ、多くの人が殺されてきただけでなく、それをきっかけとして社会に変革を起こし、人類は前に進んできたという事実だ。中世ヨーロッパで栄華を極めたキリスト教も、ペストの流行により権威を失い、ルネサンスという大きなうねりを生んだというのは興味深いし、第一次世界大戦の終わりを早めたのはスペイン風邪の流行という見方も面白い。それぞれの時代で疫病により時の権威が揺さぶられ、新しい潮流が生まれたという歴史に、我々は学ばなければならない。教育、働き方、公衆衛生のあり方が各国で見直されているのは大変興味深い流れであるし、進行したグローバル化に伴い感染が拡大したにも関わらず、感染の抑え込み、医療研究などの分野で思ったほど国際協調が進んでいないのは誠に残念なことだ。このコロナ禍が、ここ数年欧米諸国で見られる自国第一主義を打破するきっかけとなれば、人類の新型コロナウィルスへの勝利への一歩となるのではないか。

 

日々の感染者数の増減に一喜一憂し、それに踊らされるのではなく、冷静に今を見つめるためには歴史に学ぶことが大事だ。両書共、性格は異なれど、感染症が如何に多くの人を殺してきたかということではなく、人類がそれを克服して、どのように前進してきたかという発展の道筋を教えてくれる良い本だ。まだ、読んでいない方には、今の時期だからこそ是非手にとって頂きたい。



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