Thoughts and Notes from CA

アメリカ西海岸の片隅から、所々の雑感、日々のあれこれ、読んだ本の感想を綴るブログ。

『キリスト教からよむ世界史 』 5年越しのお勉強

アメリカの日常生活にはキリスト教が溢れている。街の至る所に教会があるし、日曜日の午前中は教会に礼拝に行く人が多いためゴルフやヨガはがら隙だし、子どもに人気のファストフードのチックフィレイ(Chick-fil-A)は安息日である日曜日には営業をしない。人々が誰に対してもオープンでフレンドリーであるのも「あなたは隣人を自分自身のように愛さねばならない」というキリスト教の教えがその支柱にあるのではないかという肌感覚がある。

そんな環境で生活しながら、私のキリスト教についての知識は穴があったらはいりたいくらい乏しい。小室直樹氏の『日本人のための宗教原論―あなたを宗教はどう助けてくれるのか』とマックスウェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神 (岩波文庫)』の端っこをかじった知識くらいしかなく、アメリカの街角でよくみかけるバプテスト教会って、どういうポジショニングなのかとか、恥ずかしながら理解していなかった。

流石にもう少し勉強しないといけないだろう、という問題意識をうっすら持ちつづけて彼此5年くらい経つのだが、今年の夏の一時帰国の折に本屋で本書『キリスト教からよむ世界史 (日経ビジネス人文庫)』を見かけ、遂に着手をすることになる。

 

本書を選んだ一番の理由は「わかりやすそう」だから、である。「教皇権と皇帝権 ヨーロッパ世界の形成」、「修道院と農業改革 祈り・学び・働く世界の誕生と変遷」、「十字軍と東西交流 当初の目的から外れていった運動」、「パントワインの否定から始まる 宗教改革とローマとの決別」というような30のトピックで構成されており、主だったキリスト教史をお手軽に理解するには良さそうに見えた。

各トピックは、タイトル、サブタイトル、概要、そして本文という形で構成されている。一例をあげるとこんな感じだ。 

キリスト教からよむ世界史 (日経ビジネス人文庫)

キリスト教からよむ世界史 (日経ビジネス人文庫)

 

 タイトル:宗教戦争
サブタイトル:新旧の衝突と主権国家の誕生
概要:
歴史が大きく変動する時には、何らかの原因があります。16〜17世紀の宗教改革・宗教戦争はヨーロッパの歴史を大きく変えましたが、教会の腐敗という言葉だけではない、もっと大きな社会の変化がありました。経済活動が盛んになり、農民や市民の意識が高まっていたこと、さらに諸侯たちが、教会と皇帝という2つの権力が対立している中で、新しい問題意識を持ち始めていたことです。宗教改革者の問い掛けはこれらに応えるものになりました。
本文:(割愛)

このタイトルとサブタイトルの内容の意味するところを理解しつつ、概要の内容を頭にいれれば、キリスト教を軸に大ぐくりに世界史をおさえることができる。そういう意味で、初学者である私にとって、本書の一番の価値は、このわかりやすい構成である。

一度読み通した後に、タイトル、サブタイトル、概要だけを拾い読みをしていくと歴史の流れをつかむことができるし、特定のトピックについて本文を再度読み直し、深堀りすることもできる。また、各章のくくり方も絶妙である上、その各章が10ページほどの本文まとめられているので、キリスト教や世界史の知識がさほど無くても、各章を読み切ることは苦ではない。読み通せば、カトリック、プロテスタント、イギリス国教会、ピューリタン、イエズス会、バプテストなどの関係とその世界史上の役割をより立体的に捉えることができるようになる。

 

上述した長所をあげつつ、本書の欠点もあげさせてもらうと、ある程度前提となる世界史並びにキリスト教の知識がないと理解が容易ではない点だ。表紙から感じる印象は「わかりやすそう!」だが、読んで見たら意外と初学者に優しい本ではなかった。

本書だけ読めばある程度の理解をえることができるようになっていれば良いのだが、ウェブなどで少し勉強をした上で読まないと、章によっては理解が容易ではない。例えば、「十字軍と東西交流 当初の目的から外れていった運動」について言えば、「十字軍というのは当初はエルサレムをイスラム世界から奪還することを目的に派遣され、当初は一定の役割を果すものの、そのうち対象がイスラム勢力が盛んなエジプトに変わったり、政治的な思惑によりキリスト教圏である東ローマ帝国を征服したり、迷走をみせる。一方で、イスラム圏の高度な文化がヨーロッパ圏に展開され経済と文化を発展させるきっかけとなる。」というような理解をもって本文にあたるとぐいぐい読めるが、そういうバックボーンがないと高々10ページを読む足取りが一気に重くなる。

 

私の場合はYouTubeにあがっている動画などで勉強をした上で、本書にあたるという作戦で大いに勉強にはなった。私のような不勉強な人間には少し骨があるが、世界史にある程度あかるい、もしくは粘り強く勉強しつつ読み進める意欲のある方には本書はオススメである。

Creative Commons License
本ブログの本文は、 クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(表示 - 非営利 - 継承)の下でライセンスされています。
ブログ本文以外に含まれる著作物(引用部、画像、動画、コメントなど)は、それらの著作権保持者に帰属します。