Thoughts and Notes from CA

アメリカ西海岸の片隅から、所々の雑感、日々のあれこれ、読んだ本の感想を綴るブログ。

クラウド・コンピューティングは大企業でも適用可能か?

マッキンゼー"Clearing the air on cloud computing"というレポートの中で、企業が自身のデータセンターを抱える際のコストとAmazonのEC2を利用する際のコストを比較しており、なかなか興味深い。

Current cloud computing services are generally not cost effective for larger enterprises

  • Most EC2 options are more costly than TCO for a typical data center
  • Enterprises could get lower TCO through pre-pay agreements – but only for Linux systems

現在のクラウド・コンピューティングのサービスは、総じて大企業にはコスト効率はあまりよくない。

  • 殆どのEC2のオプションは典型的なデータセンターのTCOよりコスト高である
  • 大企業はプリペイ形式であればより低いTCOを実現できるが、それはLinuxのシステムに限った話である

SOURCE: McKinsey&Company Clearing the air on cloud computing

EC2の利用方法には、従量課金型とプリペイ形式があり、従量課金型のほうが当然費用対効果は低い。これは携帯電話を沢山利用するのであれば、月々の基本料金をなるべく多めに払ったほうが、費用対効果が高いのと同じ理屈だ。
マッキンゼーの分析によれば、データセンターを抱える大企業の1CPUあたりの月々の費用は$45程度だが、従量課金型でEC2を利用する場合は、Linuxであってもそれをはるかに上回る。
*1

The cost of cloud must come down significantly for outsourcing a complete data center to make economic sense
データセンターを丸ごとクラウド・コンピューティングに移行し、かつ経済合理性を実現するためには、クラウド・コンピューティングのコストはもっと下げる必要がある。
SOURCE: McKinsey&Company Clearing the air on cloud computing

上記の分析をもって、マッキンゼーは中小企業はさておき、自社でデータセンターをかかえる大企業が、クラウド・コンピューティングにシフトすることはあまり経済合理的でないと結論付ける。


だが、この見方には、Nick Carrが” The big company and the cloud”で、下記のとおり指摘しているように重大な誤りがある。

The real opportunity that the cloud offers large companies today is as a supplement or complement to their in-house operations rather than as a complete replacement. The cloud model offers a way to gain access to additional computing and storage capacity, particularly to cover fluctuations in demand or carry out a short-term data-crunching exercise, without having to make capital investments in new equipment or hire more workers.
今日、クラウドを活用する本当の機会は、既存データセンターの完全な移行ではなく、それの補完、及び強化にある。クラウドによって、追加の計算処理能力やストレージへのアクセス、時期によって上下する需要への対応、短期間の大容量データ処理、などを新しい資産や従業員の新規雇用などの資本的支出無しに実現することができる。

大企業へのクラウドの適用可能性を考える際に一番重要な視点は、どこは外出しにして、どこは引き続き中で保持しておくか、という点だ。逆に、コンサルティング会社が価値を発揮する点はそこにあると思うのだが、不思議とマッキンゼーは「全部出し」しか議論の遡上にのせていない。コンサルティング会社は、大企業が引き続き巨大で複雑なITシステムを保持すれば、商売のネタになると考えていると、Nick Carrはかなりうがった見方をしているが、それもあながち間違いでないかもしれない。


大企業におけるクラウド・コンピューティングの活用は、もう少し実例がでてこないと議論が進まない感があるが引き続き注目していきたい。

*1:□はWindows、○はLinux、薄い青は従量課金型、濃い青はプリペイ型

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