久しぶりにPOLAR BEAR’S BLOGを読んだら、"ひとりで考える>みんなで考える"というエントリーが
WEB2.0 の時代は「みんなで考える」ことがもてはやされていますが、それがあらゆる場面で正しいというわけではないようです。
という記述で始まり、どういうひねりのあるオチがついているのかと思って読んでいったら、
「ネット経由でコラボレーション可能にした、これで仕事の生産性が上がるだろう」と安易に考えることはできない -> むしろ生産性を下げるリスクもある、という教訓は得られるのではないでしょうか。どんなツールも使い様なわけですが、ネット経由でコラボレーション「しなかった」方が著しく良い結果を出したとなれば、いわゆるエンタープライズ2.0という発想は予想以上に慎重に扱わなければならないのかもしれません。
という風にひねりなくストレートにしめられており、飲んでいたお茶を思わずふいた。スルーしようとも思ったが、オチを期待して最後まで読んだだけにチェンジアップ見逃し三振みたいな口惜しさがあるので、せめて自分のエントリーのネタに・・・。
紹介したエントリーを最後まで読むと、「みんなで考えることが"あらゆる場面で正しい"」と考えている人が多数派という前提にたっていることがわかるが、いわゆる「群集の叡智」が語られる際のコンテキストは、「みんなで考えることのほうが"正しいこともある"、諸々の条件がそろえば集団の中の最も優秀な個人の知力より集団のほうがきわめて優れた知力を発揮できる、あぁなんて面白いんでしょう」という感じであり、「みんなで考えることが"あらゆる場面で正しい"」と勘違いしている人はかなり少数だろう。たとえ烏合の衆であっても、やり方次第では超優秀な一個人を凌駕しうるという逆説性にこそ「群集の叡智」のロマンがあり、だからこそ皆これだけ注目しているとみるほうが妥当である。
正しい状況下では、集団はきわめて優れた知力を発揮するし、それは往々にして集団の中でいちばん優秀な個人の知力よりも優れている。優れた集団であるためには特別に優秀な個人がリーダーである必要はない。集団のメンバーの大半があまりものを知らなくても合理的でなくても、集団として賢い判断が下せる。
- 作者: ジェームズ・スロウィッキー,小高尚子
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2006/01/31
- メディア: 単行本
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『「みんなの意見」は案外正しい』 〜はじめに P.9、10〜
『「みんなの意見」は案外正しい』でも、冒頭で上記のようにまとめられており、「ではその正しい状況下というのはなんであるのか、どういう場合にはうまくいき、どういう場合にはうまくいかないのか」ということが300ページ近く延々と議論されている。なお、本書でまとめられている「正しい状況」とは下記の4点であるため、まだ読んでいない方は参考にされたし。
言葉 | 定義 | 英語表記 |
---|---|---|
多様性 | 集団の中のそれぞれの人間が自分の私的な情報とそれに基づく意見を持っており、突飛なものも含め色々な意見がある状態 | diversity of opinion |
独立性 | 周囲の人の意見に影響されずに集団の中の人がそれぞれ意思決定できる状態 | independence of members from one another |
分散性 | 集団の中のそれぞれの人間がローカルで具体的な情報に基づき意思決定をする状態 | decentralization |
集約性 | 多様な情報や意見を集め、うまく集約する仕組やプロセスがある状態 | a good method for aggregating opinions |
個人的には、「集団の持つ情報量・視点は、その集団の中の一番優秀な個人の持つ情報量・視点より「必ず」多い」ということが、「群集の叡智」の活用を考える際に念頭におかなければならない原理であり、その数で勝る情報量・視点を如何にして叡智たらしめるかということが議論の出発点になると思慮する。
来年も引き続き「群集の叡智」がHot Topicになることは間違いないし、壮大な試行錯誤が5年10年の単位でこれから始まると言っても言い過ぎではない。一方で、ある言葉がより多くの人に伝播すればするほど、地に足のつかない踊った議論が多く生まれることは容易に想像できる*1。そういった、誤解にのまれないように、本質をみるよう気をつけていきたい。
*1:POLAR BEAR’S BLOGの上述のエントリーは、それを見越した上での早い警鐘であることは想像に難くないが