Thoughts and Notes from CA

アメリカ西海岸の片隅から、所々の雑感、日々のあれこれ、読んだ本の感想を綴るブログ。

『外国人にささる日本史12のツボ』 日本を語る第一歩

「どこの国に行ってみたいか」という話をアメリカ人の同僚とすると「日本」と答える人は決して少なくない。もちろん、目の前にいる日本人に対していくばくかの配慮があっての話であろうが、同席したブルガリア人の同僚に忖度して「ブルガリア」と答えた人は今までみたことがない。アメリカ人にとって、日本という国は東洋の国の中で「特別に興味をひく国」であることは肌感覚として間違いがない。

 

海外に住むと日本の文化、歴史、並びに宗教観が話題にのぼることは多い。母語でない英語で説明することの難しさもあるが、自分の中にそういうことを語ることのできる蓄積があるかどうかが一番大事であり、英語がいまいちでも内容があれば、みんな興味津々に聞いてくれる。自殺率が高い、地震が多い、過労死、などのネガティブなイメージも結構持たれているが、日本に興味を持つだけでなく、不思議な国である日本から学びたいと思っている方は多いことに驚かされる。

 

渡米してから日本の良さや、どういうところに独自性があるのかを説明するために、日本史を改めて勉強しなおしたり、神道についての本を読んだりそれなりに勉強をしてきた。コロナ禍のおかげで、渡米以後低迷を続けていた読書量も回復の兆しをみせていることもあり、自分の中の引き出しを充実させることに勤しんでいる。

 

 本日紹介する『世界96カ国をまわった元外交官が教える 外国人にささる日本史12のツボ』はタイトルが直球すぎて非常に惜しくはあるものの、鋭い目の付け所で多くの示唆と学びを与えてくれた。筆者山中俊之氏は外交官として、エジプト、イギリス、サウジアラビアなどの国に赴き、外交官としての経験をつんだ国際派。そういった経験の中で、唯一性があり、海外から評価されるに値し、他国にも影響を与えた、もしくは与えうる12の日本史のテーマを本書で紹介している。小説やドラマなどの表舞台にたつことの多い日本の歴史と言えば、戦国時代や明治維新であるが、筆者は海外の人からみれば、ありきたりな権力闘争や近代化のストーリーであって面白みがないと一刀両断する。その代わりに筆者が上げるテーマが、自然崇拝、禅思想、天皇制、江戸時代の経済制度と庶民教育、葛飾北斎、古典芸能、外国文化を吸収・融合する力、地方の多様性、女性の活躍史などであり、どの項目も興味深く、学びが多かった。

 

自然崇拝と禅思想については、私もよくあげるトピックであるが、これらは確かにうけるし、海外の方と話す時に重要となる「宗教観」についての一つの答えになる。アメリカでは、近藤麻理恵とその片付け術がものすごく人気がある。Netflixの『KonMari ~人生がときめく片づけの魔法~』は、近藤がクライアントの家を訪ね、彼女の指導によってとっちらかった家が片づいていく経過、そのビフォーアフターを見せる番組である。家を訪れ、クライアントとのあいさつが済むと、彼女は「おうちにあいさつしていいですか」と断りをいれた上で、正座をして、瞑想にふけり、彼女なりの「おうちへのあいさつ」をする。初日の出に手をあわせるなど、無機物に何かが宿っているという感覚をそなえる日本人にとっては、それほど不思議な光景ではないが、「家に挨拶をする」という行為はクライアントには非常に稀有にうつり、彼女の片付け術に神秘的な付加価値を見出す様がお馴染みの光景となっている。また、物を捨てる際に、そのものに感謝をするという行為もわれわれにはそれ程違和感はないが、アメリカの方々には新鮮な模様。無機物に何かが宿っているというアミニズムの視点は、自然と共生する古来の日本人にとっては何気なく備えたものであるが、海外の方からみると不思議に見え、興味並びに学びの対象になったりするのである。自分たちに何気なく備わっているものを、文化や歴史の視点から捉え直すことが、海外の方に日本のことを説明する第一歩となるのだと思う。

 

12月24日に「メリー・クリスマス」とクリスマスを祝ったと思ったら、1週間後の1月1日には初日の出を拝んで、初詣をするというごちゃまぜ感に、節操がないという批判はよく耳にする。ただ、キリスト教やイスラム教のような一神教ではなく、様々な神々を古来より信仰してきた日本人は、他の宗教に対して寛容であった、という見方のほうが私は前向きで良いと思う。神道は本を何冊読んだが、その開祖と経典がないという特徴から非常にふんわりしてとらえどころがなく、未だに理解と説明が難しい。ただ、最近はそのふんわり感が他の神様を受け入れることへ許容度を高めているようにも思う。

宗教的な寛容性が減少しつつある現在の国際社会において、日本人は自らの宗教における寛容性をあらためて自覚し、この感覚が社会に与える正の側面を伝えていけたらいいのではないかと考えます。

 という筆者に視点に私は強く同意をするし、そういう見方を広めていくためには、自分自身が知見をもっと深めてなければいけないと改めて思う。

 

Amazonのレビューなどを見ると本書は「あまり深堀りされていない」という評価が多い。確かに「では何故そうなのか」という点をもう少し踏み込んで欲しいと感じるところも多々あった。が、本書であげられているテーマは深淵で、お手軽に一丁上がり語り尽くせるほど浅い内容ではない。幸いなことに章ごとに参考文献がどっさりあげらており、私も何冊かに手をつけはじめた。

海外との接点が多く、そういうことを話す機会は多いものの、正直色々忙しく受験の時に勉強した日本史もあまり頭に残ってないんだよねぇ、という方には本書は最高の入り口だ。どこから手を付けたらよいのやら、という人には強く本書をお薦めする。

 

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