Thoughts and Notes from CA

アメリカ西海岸の片隅から、所々の雑感、日々のあれこれ、読んだ本の感想を綴るブログ。

『妻のトリセツ』 「話を聞かない夫」に「話」を聞いてもらうのに大事なこと続編

何年も前に書いたエントリーなのに、未だに高アクセスのものがいくつかある。『「話を聞かない夫」に「話」を聞いてもらうのに大事な5つのこと』はその一つなのだが、アクセスが多いだけでなく、怒髪天をついた女性がその心情を吐露するコメントを継続的によせる、本ブログの中では珍しいエントリーだ。話を聞かない夫の視点で、現実解を提供したつもりだったのだが、むしろ相互理解の芽をつみ、諦めと断絶の温床となっているケースが散見されることは私にとっては大いなる学びであった。よくよせられるコメントは、「妻だけでなく、夫がどう変わらなければならないのかも、書いてほしい」というもの。気持ちはわかるが食指が動かなかったので放置をさせて頂いているうちに、『妻のトリセツ』という素晴らしい本が出版された。

妻のトリセツ (講談社+α新書)

妻のトリセツ (講談社+α新書)

 

「妻の話を聞くために夫が理解すべきことが書かれた指南書が欲しい」と切望されている女性は、本書を購入し、夫の書架にこっそり鎮座させるのがオススメである。

 

実は、本書を本屋で見かけた時は正直あまり食指が動かなかった。ぱらぱらとめくってみても目新しいことはなかったし、「トリセツ」というモノ扱いする語感に今一つ共感できなかったからだ。が、帰米のフライトは本土まで13時間もかかる。なので、読み応えがある本から読み流せる本までその時々の気分に応じて色々な本が読めるようラインアップをそろえておきたい。というわけで、読み流し用として本書を購入することとした。が、機内で手にとって読み込んでみて、良い意味で期待を裏切られた。これはアタリである。

 

本書は黒川伊保子女史による著で、筆者が女性であるという点でまず信憑性がある。私のようなおっさんが、捉えどころのない女心を多面的にとらえ、論理と説得力をもって語ろうという試みは無謀の一言につきる。やはり餅は餅屋だ。いかにもありそうな、男性が理解しがたい女性同士の会話をいくつも紹介できるのは、女性ならではだ。そして、筆者の新骨頂は、女心のどの部分がおっさんにとって理解が容易でないことを理解した上で、その女心を科学的に解釈し、具体例を用いながら説明し、フレームワークに落とし込む、というビジネスパーソンがすんなり受け入れることのできる論理構成にしていることだ。きっと筆者は『夫のトリセツ』を書かせても、うまく書き込なすであろう。

一つ具体例をあげよう。筆者は女性の会話の感じ方を、

  1. 心は肯定 ー 事実も肯定
  2. 心は肯定 ー 事実は否定
  3. 心は否定 ー 事実は肯定
  4. 心は否定 ー 事実も否定

という四象限にわけ、女性は3番目と4番目は使用しないと断じる。この「心は肯定」というのは、別の言い方をすれば共感をしめすということだ。即ち、共感させ示しておけば、その後の発言や行動の許容度は飛躍的に増す、というのだ。筆者は事実を否定しても、心を肯定しておけば全く問題ないということを下記のような例で紹介する。

ファミリーレストランに中年の女性3人が入ってきた。席に着くなり、一人が季節の限定メニューのマンゴーパフェを見つけた。
女性A「見て!季節限定のマンゴーパフェだって。美味しそうじゃない?」
女性B「あら、ほんと!マンゴーって美味しいよね」
女性C「まったりしてて、アイスクリームと相性もいいし」
ひとしきり旬のマンゴーの美味しさについて盛り上がったのち、Bが「でも、私、チョコね」とあっさり一抜け、Cも「私は白玉にしとくわ」と二抜けした。それでもAは特に機嫌をそこねるわけでもない。
この状況、女性脳同士なら全然不思議でもなんでもない。最初にちゃんとAの心(気持ち)を肯定しているから、あとは何を頼むのも自由というわけだ。

この男性視点で見ると理解し難いやりとりを、四象限のフレームワークで仕訳をして、説明しきる手腕はお見事である。

 

「話を聞かない夫」に「話」を聞いてもらうのに大事な5つのこと』というエントリーとそれに寄せられたコメントをみて、「女性は共感して欲しいのよ」と妻に指摘をされ、「そうだよねぇ」と軽くわかった風に受け流していたが、本書を通してその言葉がようやく腹におちた。その点では、心を入れ替えたつもりであっても、私は未だ「話を聞かない夫」らしい。道のりは遠く険しい。

Creative Commons License
本ブログの本文は、 クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(表示 - 非営利 - 継承)の下でライセンスされています。
ブログ本文以外に含まれる著作物(引用部、画像、動画、コメントなど)は、それらの著作権保持者に帰属します。