Thoughts and Notes from CA

アメリカ東海岸の片隅から、所々の雑感、日々のあれこれ、読んだ本の感想を綴るブログ。

女性役員のいる会社は競争力がある?そんなつまらん議論はやめたほうが良い

"女性役員のいる会社は、業績が良く、競争力もあり、イノベーティブな理由"なる記事を読んだのだが、外資系企業で声高に叫ばれるダイバーシティによる女性の積極登用を見てきた経験から一言言いたい。有能な女性の活躍の場が広がることはとても良いことだと思う。また、有能な女性が活躍する場や制度が十分に整備されていないのも現実だと思う。だが、「女性役員のいる会社は、業績が良く、競争力もあり、イノベーティヴだから女性役員の比率をもっとあげるべきだ」という意見には賛成できない。目的と手段が逆になって長続きすることなんて世の中に一つもないからだ。

数カ月前にニューヨークで、「the 30% Club」アメリカ支部をキックオフための重要な会議が開かれました。the 30% Clubとは、「上場企業の役員にもっと女性を増やす」という目的を持つ民間セクターです。

有能な女性が役員として活躍できる場が増えるのは良いことだが、それと今以上に役員になる女性をもっと増やすというのは別の話だ。個別具体的な話を抜きに、「30%まで比率をあげると、いいことがおきるに決まっている」という結論ありきのこの団体に疑問をおぼえる。この30% Clubという組織のウェブサイトを見たが、「義務としての数値的な目標を持つことはサポートしていない(We do not support mandatory quotas)」と但し書きがついているものの、組織の名前が思いっきり数値的目標なので、但し書きをどう解釈してよいのか理解に苦しむ。また、Steering Committeeのメンバーを見ると殆どが女性。「GROWTH THROUGH DIVERSITY」とあるが、自組織のダイバーシティはどうなっているんだと問いたい。

女性役員の割合を、企業規模やビジネスや産業に関わらず、すべての会社が増やした方がいい、説得力ある理由が少なくとも3つはあります。

と記事中で3つの理由があげられているが、私にはどれもすっと入ってこない。


「1.女性役員がいる会社の方が儲かっている(Companies with women on the board perform better financially)」という点については議論があまりにも雑。直接的な因果関係はないが、全てのデータは女性がUpside以外はもたらさないと言っている、との強弁に説得力を感じる人がいるのだろうか。CFOやFinancial Controllerというような財務面の役員に女性を登用している会社と、それ以外の会社の利益率の差を比較して、女性財務役員のいる会社のほうが利益率が高い、とか、せめてもう一段深いレベルの議論を期待したい。


「2.女性役員がいる会社の方がイノベーティブ(Companies with women on the board are more innovative)」というのも雑。多様性イノベーションを加速するという原則論と女性の役員登用率の向上の間にある溝に説得力のあるロジックで橋を全くかけられていない。「世界的なマーケットで大部分を占める女性」って一体なんのことを言っているんだろうか。せめて、「食品・消費財メーカーのような購買の意思決定権を女性が握ることが多い産業においては、女性は市場機会や顧客のセグメントに関して、男性社員には思いつかないような、個人的な視点を持ち込める」というなら、「へぇどんなデータがあるのか見てみたい」という気になるが、「企業規模やビジネスや産業に限らず」と言っているがゆえに説得力をなくしている。


「3.女性は役員の役割をより効果的にする(Women make boards more effective)」については、経験的に婦警的な役割でもってリスク管理・監視強化をごりごりする女性を多く見てきているので、その機能に限っては頷ける部分はある。だが、女性の役割登用率をあげれば「競争力」が高まるという、帰結に対する説明が薄弱で、説得力を本記事から私は全く感じない。



一部重箱の隅という話もあるが、何で「the 30% Club」に自分がこんな反感を覚えるのかというと、私自身がダイバーシティによる女性登用が逆噴射しているケースを何度か見たことがあるからだ。「有能な人をより活躍できるポジションに」という原則に異は全くないのだが、「the 30% Club」みたいな「比率をあげることが正」みたいが議論になると「有能ではないのに女性だから役員になる」というケースがどうしてもでてきてしまう。それは組織にとっても不幸だし、本人にとって一番不幸な話だと思う。 実際にパフォーマンスも発揮できてなく、「あぁ、あの外人役員はダイバーシティ枠ね」みたいな陰口を叩かれている人を見たことが何回かあるが、数字ありきだからそういうつまらない話になるのだと思う。


数字ありきでとにかく「役員比率をあげよう」という話ではなく、有能な女性が経営陣として活躍できるまでのキャリアを積んでいく道にある、様々な障害を取り除こうという個別具体的な議論をもっとすべきだ。妊娠・出産という多くの女性が直面する必然的なライフイベントがもたらすインパクトの軽減とか(アメリカ女性は産休、育休のアメリカの制度としての少なさに皆不満をもらしている)、何時から何時まで職場にいたことを評価するのではなく、あくまで労働の成果を評価し、時間と場所の制約から解き放つワークスタイルの確立とか、強面のおばさんが集まって話すべき内容はもっと他にあるんではなかろうか。なお、大変蛇足ではあるが、ということが趣旨であり、女性登用率の向上そのものを苦々しく思っているおじさんの溜飲を下げるために本エントリーを書いたわけではないので、あしからず。

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