Thoughts and Notes from CA

アメリカ西海岸の片隅から、所々の雑感、日々のあれこれ、読んだ本の感想を綴るブログ。

『ゼロ』 ホリエモン、塀の中でなお自由を語る

『ゼロ なにもない自分に小さなイチを足していく』というタイトルが、昨年11月に家族と渡米し、新しい環境で日々悪戦苦闘する自分の心象風景にあてはまるように感じ、本書を手にとる。読み始めてすぐに思った、これはアタリだと。

物事の出発点は「掛け算」ではなく、必ず「足し算」でなければならない。まずはゼロとしての自分に、小さなイチを足す。小さく地道な一歩を踏み出す。本当の成功とは、そこからはじまるのだ。
『ゼロ なにもない自分に小さなイチを足していく』

腹に落ちてしまえば、もう当り前の言葉であるが、四則演算のメタファーを使って実にうまく表現したものだ。筆者は、自身が発行するメールマガジンで購読者からの相談を受け、それに対して答えるQ&Aのコーナーを設けており、これまでに1万以上の相談に回答をしている。その中で感じたのは、「楽をして稼ぐのはどうしたらよいか」という近道を初めから求める人があまりに多いということ。楽して金を稼ぐ拝金主義者というレッテルを貼られることが多い筆者であるが、本書のコンセプトをそれを真っ向から否定すること。「小さく地道な足し算をこつこつと重ねていく」ことが何もない自分を何者かになるために、避けることとのできないステップだと筆者は強調する。1万人以上の相談に回答するという希有な体験の上での言葉なので説得力も自然と増す。


渡米以後、クレジットカードの審査に15秒で落ちたり、医者に行くにもまず何をしたらよいのかもわからなかったり、運転免許の実技試験に落ちたり、とにかく物事が思ったように進まない。一々壁にぶつかってトライアンドエラーをしなければならず、時間やお金を浪費することにストレスを感じていた。本書を読んで、
1) 日本ではきいた「掛け算」が、住む国が変わったばかりの今の自分にはきかないこと
2) 日々の足し算がヒャクでもジュウでもなくイチであるというのが現実ということ
3) それでもイチを足していくことがやるべきことで、そこはストレスなんて感じず胸をはって地道にやればいいということ
がわかり、その状況を受け入れることで途端に気が楽になった。


本書でもう一つ心に残ったのが下記のくだり。

考えてみればおかしなものだ。
塀の中に閉じ込められ、自由を奪われた僕が、塀の外で自由を謳歌しているはずの一般読者から、仕事や人生の相談を受けているのだから。
そして思う。
「みんな塀の中にいるわけでもないのに、どうしてそんな不自由を選ぶんだ?」
『ゼロ なにもない自分に小さなイチを足していく』

塀の中で1万人以上の人の相談にのる中で、筆者は「どうしてみんな、そんな不自由を選ぶんだ」と疑問に思う。収監され色々不自由この上ない境遇にありながら、本を読んだり、塀の中の仕事に面白みを見出したり、メルマガを発行したりして、なお自由を謳歌する自分と対比し、わき上がってくる至極自然な疑問。同じようなことは塀に入る前から筆者は言っていたように思うが、塀の外にいる筆者が問うより、塀の中の筆者が問う方が説得力はヒャク倍は増す。


このように1万人以上の人の相談にのる、長野刑務所に収監される、という2つの貴重な筆者の原体験が今までのホリエモン本と異なる彩りを与えている。話題になっている本なので、本ブログの読者の中で読まれた方は多いと思うが、まだ手にとっていない方にはお勧めしたい。

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