Thoughts and Notes from CA

アメリカ西海岸の片隅から、所々の雑感、日々のあれこれ、読んだ本の感想を綴るブログ。

『挫折力』 経営書と現場の乖離をうめる発想

『ビジョナリーカンパニー』は名著ではあるが、『ビジョナリーカンパニー』を参考にしながら、ビジョナリーカンパニーを作れる人は万に一人としていない。よく整理されており、視点も斬新で、否定のしどころがないビジネス書を読んでも、ビジネスの現場からの隔離感にもやっとした読後感をおぼえた経験は誰もがあるだろう。そんなもやっと感を解消したい人は本書を是非手にとって欲しい。本書は、ビジネス書と現場の間にどんな乖離があり、それを解消するには何が必要かが書かれている。


本書の著書は、産業再生機構でCOOをつとめ、現在株式会社経営共創基盤のCEOの冨山和彦氏。産業再生機構ではカネボウ経営共創基盤では日本航空の再生を手がけた日本の企業再生の代名詞。様々な血生臭い現場経験の中で紡ぎ出された筆者の主張は、他人の論によらず、 自らの頭で考え抜かれた凄みにあふれる。

挫折力―一流になれる50の思考・行動術 (PHPビジネス新書)

挫折力―一流になれる50の思考・行動術 (PHPビジネス新書)

古くから人間観に関して、性善説か、性悪説かという議論がある。しかし、厳しい状況にあって殆どの人間が剥き出しにするのは、「性において弱い」という本性だ。そう、「性弱説」に立って人間を見つめるのが私は正しいと思う。
『挫折力』 〜P.117〜

筆者は独自の「性弱説」を本書で説き、これが本質的で説得力があり面白い。人間は何に弱いのか、一つは個々に人が個別に持つ「性格」という心理因子、もう一つは自身の大切なことについての利害損得である「インセンティヴ」と筆者は説く。「インセンティヴ」と言っても成果主義を導入しましょう、という話しをしているわけではない。成果と対価を連動させる仕組みを作っても、組織と人が一つの方向に向かって全速力で進むわけではない。何故ならば、人を突き動かす「インセンティヴ」というのは、対価の他に、人間関係、家族の事情、年齢、健康状態など多様な要素の影響を受けているし、いわんや「性格」に至っては千差万別だからだ。経営書にかかれている「理」を現場で追求すると、必ずそこで働く人の「性格」と「インセンティヴ」の多様性の壁につきあたる。組織を束ねて一つの方向に向かうにはそういった「情」も十分に考慮し、「理」とのバランスを如何にとるかが大事であり、それこそは経営の巧みさであると筆者は説く。


本書には上記のような、「理」と「情」の乖離を如何に埋めるかという話しが沢山紹介されている。独特の冨山節は健在で、『会社は頭から腐る』とか、『カイシャ維新』などの筆者の本を読んだことがある人も十分楽しめる内容となっている。経営書を沢山読んだが、リアルな手応えが今ひとつない、という方には是非本書を手にとって頂きたい。

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