Thoughts and Notes from CA

アメリカ西海岸の片隅から、所々の雑感、日々のあれこれ、読んだ本の感想を綴るブログ。

飛行機の中での読書

諸般の事情でドミニカに行く機会に恵まれた。往復で50時間以上にもおよぶ移動。普段出張で海外に行く際は、意気込んで本を4〜5冊もっていくのだが、仕事をしたり、飲酒をしたり、映画をみたり、居眠りをしたりで、当初の目論見以上に本を読むことはない。ただ、今回はさすがに移動時間が長かったので、持っていった本はほぼ読むことができた。今回の旅行で読んだ本を紹介したい。

『凍』

凍 (新潮文庫)

凍 (新潮文庫)

登山家山野井泰史・妙子夫妻がギャチュンカン(7952メートル)北壁に挑む様を描いたノンフィクション。購入後読みたい誘惑にかられつつも、今回の長時間のフライトのためにキープ(その面白さに一気に読了してしまったため、あまり時間つぶしにはならなかったが、、、)。数ある沢木耕太郎のノンフィクションの中で間違いなくベスト3にはいる名作。本能に突き動かされながら危険な山に挑む登山家の生き様、名声を追わずストイックに自分の登山に対する美学を貫く山野井氏のプロフェッショナリズム、そして吹雪が吹き荒れる断崖絶壁における壮絶な自然との戦い、など読みどころが多く、そこで描かれる世界に没入してしまう魅力がある。是非、多くの方に読んで頂きたい名著。

『血の味』(ネタバレあり)

血の味 (新潮文庫)

血の味 (新潮文庫)

ノンフィクション作家沢木耕太郎による初の長編小説。17歳の若さで浅沼稲次郎を殺害し、自ら獄中で自殺をする山口二矢を描いた『テロルの決算』、先の長くない父親の生きた軌跡を追い、父親を理解しようとする『無名』、などいくつかの沢木作品とテーマ、題材をオーバーラップさせながら死生観を問う一冊。主人公が父親を殺したのは何故か、父親があえて殺されたのか何か、父親があきらめた「あそこ」とは何か、など色々な解釈ができるが私自身まだすっきりした解釈がない。少し時間をおいて再度読んでみたい一冊。

『燃ゆるとき』

燃ゆるとき (角川文庫)

燃ゆるとき (角川文庫)

長時間のフライトには高杉良経済小説を携えるようにしている。物語性が強く読み進めやすいためワインなどを舐めながら読むのに丁度良いし、仕事人として心に残るようなシーンも時としてあり、勉強にもなる。本書の主人公は、「マルちゃん 赤いきつね」でお馴染みの東洋水産の創業者森和夫氏。築地の魚屋のオヤジとして会社を立ち上げ、常に顧客、従業員に真摯に向き合い、猛烈に働き、東洋水産を一部上場企業まで大きくした軌跡が画かれており、一言で言えば「痛快」な本である。売上、利益をひたすら追求するのではなく、無骨、不器用に顧客・従業員と真正面から向き合う森氏の一貫した姿勢に心を打たれる。色々な読みどころがあるが、三井物産資本力にものをいわせた卑劣な迫害との戦いは読み応えがある。サラリーマン根性丸出しの総合商社の口銭ビジネス醜さがうまく描かれており、商社マンには自戒の念を込めて是非読んでいただきたい一冊である。

『青年社長 上・下』

青年社長〈上〉 (角川文庫)

青年社長〈上〉 (角川文庫)

青年社長〈下〉 (角川文庫)

青年社長〈下〉 (角川文庫)

またまた高杉良ワタミフードサービス渡邉美樹氏の物語。渡邉氏自身は依然として現役ばりばりなので、小説化するには少し早いのではないか、という印象ももったが、佐川急便のドライバーとして創業資金を集めるところからスタートし、和民を全国展開するに至るまでの軌跡はなかなか興味深く読める。渡邉氏というと、その一本気な性格故に、結構好き嫌いが分かれるというのが私の印象だが、本書はそういうところも含めてうまく描かれていると思う。こてこての努力したが故のサクセスストーリーが展開されるだけでなく、お好み焼き屋の味を盗むために素性を隠してスパイ紛いにバイトとして社員を潜入させたり、日清製粉から投資をしてもらうため「さくら」を店舗に配置したり、首をかしげるような姑息な手段を悪気なく遂行する様もあわせて描かれており、外連味があるようで、ない点が何とも「らしさ」を感じる。
『燃ゆるとき』は、筆者が「自分はそんな大層な人間ではない」という森和夫氏に何度も頼み込み、小説化にいたったようだが、この『青年社長』はその逆なんではないかという邪推が思わずわいてしまう。

『料理人』

料理人 (ハヤカワ文庫 NV 11)

料理人 (ハヤカワ文庫 NV 11)

超一流の腕を持った、黒ずくめの不気味な“料理人”コンラッドが、ヒル家のコックとして雇われる。料理を中心に起こる田舎町コブでの奇想天外な物語。私は料理が好きなので、たまには料理をモチーフにした小説でも読んでみるかと手に取ってみた。題材が料理だけにそれなりに楽しく読めたが、料理の描写が粗かったり、フィクションならではの荒唐無稽感があり。あまり好むところではなかった。料理に関わる文庫本なら壇一雄『檀流クッキング』とか、『美味放浪記』とか、『わが百味真髄』とかのほうがずっと面白い。

『チェンジ・リーダーの条件』

今回もっていった唯一のビジネス書。「チェンジ・リーダー」というタイトルから変革を促すリーダーについてのトピックが多いかと思いきや、どちらかというとマネジメント全般に対するドラッガーの著作からの抜粋がメイン。見落としがち、忘れがちな原理原則が一貫して記載されており、やはり勉強になる。扱うトピックは幅広く、「NPOは企業に何を教えるか」という章は特に興味深く読めた。

一流のNPOは、顧客をさがすためだけでなく、自分たちがどの程度成功しているかを知るために、外の世界に目を向ける。使命を明かにすることによって、外の世界への認識も深まる。そもそもNPOには、大義に満足し、よき意図をもって成果に代える傾向がある。したがって、成果をあげて成功するには、いかなる変化を外の世界に起こすことを自らの成果とするかを明かにし、そこに焦点を合わせなければならない。
『チェンジ・リーダーの条件』 4章 NPOは企業に何を教えるか P.66

という点など、NPOの経営に関わる人は全て肝に命じるべき金言と思う。
なお、隣の席には積ん読状態だったドラッガーの『非営利組織の経営』を書架から引っ張りだしページを手繰るNPOで働く妻。一ページ手繰ったところで、静かに寝息をたて、眠りの世界へ。まずは、「4章 NPOは企業に何を教えるか」あたりからさらっと読むことを勧めることにしよう。

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