最近どうもビジネス書や自己啓発書には今ひとつ食指が動かない。その類いの本を読みすぎたからなのか、この年にしていよいよ読書らしい読書に目覚めたからなのか定かではない。 その代わりではないが、昨年末から沢木耕太郎をよく読んでいる。 自己啓発書の「伝えたいことをわかりやすく伝えるための表現」とは異なる、「自分にはまずできないなぁ」という力と奥行きのある文章に触れ、「読むこと」そのものへの楽しみをかきたてられることが多い。
気付いたら3ヶ月で20冊ほどの沢木耕太郎の著作を読んでいた。これほど一人の作家の本を固めて読むのは私には初めてのこと。臨場感もって描かれるノンフィクションの世界にはまったということもあるが、彼の文章に漂うダンディズムにひかれたというのことも理由の一つにある。きっと、30代半ばという私の年齢が一層それを強く感じさせたのだと思う。 本ブログの読者は私と同年代の方が多いと推察されるので、読んだ本の中で特にお勧めのものを今後いくつかのエントリーで紹介していきたい。まずは、『バーボン・ストリート』を紹介したい。
- 作者: 沢木耕太郎
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1989/05/29
- メディア: 文庫
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「ポケットはからっぽ」では、幼年、少年、青年、壮年、老年というそれぞれの時代を男がくぐりぬけて行くにあたり、「青年」と「壮年」をわけるものは何か、というテーマが語られている。既に「青年」ではない「壮年」にある身には興味深いテーマ。物欲、失うことへの恐怖、保険などがキーワードに話が進められ、「人が青年でなくなる」のは、年齢でも結婚でもなく、「あること」をした時、と最後に結論づける。その「あること」は何かは本エントリーではふれないが、非常に腹落ちする内容であった。同じ境遇の男性には是非読んで頂きたい(ちなみに私はその結論に基づけばやっぱり既に青年ではなかった・・・)。
「トウモロコシ畑からの贈物」では、本筋ではないのだが、「息子のような世代の少年に自分の大事な何かを伝えたい」という男の思いについて語られており、強い共感を覚えた。以下、しみじみと読みいった箇所を引用したい。
おまえは人に教えるに値するものを持っているのか。そう改まって問われれば誰しもうろたえざるをえないだろうが、何十年かの人生の中で、腹の底から納得したことのひとつやふたつがないはずはない。男はそれを伝えることで何十年かの自分の人生の確認をしたいのだろう。
『バーボン・ストリート』 〜トウモロコシ畑からの贈物 P.241〜
上記のような、今の自分だから「しみいる」話題であふれるエッセイ集。飲み屋で話す内容は、会社や家庭についての愚痴ではなく、本書で語られるような内容でありたい。私と同じく壮年の男性には是非手にして頂きたい。