Thoughts and Notes from CA

アメリカ東海岸の片隅から、所々の雑感、日々のあれこれ、読んだ本の感想を綴るブログ。

ぶれるGoogleとぶれない任天堂

日経ビジネスの2011年2月11日号の「ゲームのデフレを突破」という任天堂岩田社長のインタビュー記事と「大企業病に挑むグーグル(原題:Larry Page's Google 3.0)」という記事が何とも対照的でなかなか面白かった。
3〜4年前はGoogleの記事というと飛びついて読んだものだが(ミーハー?)、最近はあまり面白い記事がないのでスルーすることが多かったのだが、今回の記事は「大企業病に挑むグーグル」というタイトルにひかれ読んでみた。組織の規模が大きくなるにつれ、大きさ故の様々な弊害が生じるというのはどこの会社も一緒。その複雑さをいかにマネージするかが企業価値を決める一つの重要なファクターであると私は考えており、Googleがその永遠のテーマにどういう風に「らしさ」を出すのかに興味があったからだ。結果はタイトルにつられて読んだことを後悔するような残念な内容だった*1。この記事で紹介されている対応策は、週次で幹部が顔をつきあわせて会議をし、それぞれの事業の異なる施策の全体最適をはかるというものと、各事業のリーダーをエンパワーし彼らにより積極的に会社全体の経営に参加してもらうというもの。「ふっつーだな・・・」と思わずジムのウォーキングマシンの上でつぶやいてしまう程、普通の話。

「我々は(意思決定プロセスを共有してきたため)スピードの面では、代償を払ってきた。社員は誰に質問したらいいか必ずしも分かっていなかった」と認める。そして、「自分のCEO昇格は「役割を明確化するもので、これでスピードの問題は解決されると思う」と言う。
日経ビジネスの2011年2月11日号』 P.99

役割を明確にしないと誰に質問したらいいのかわからない、というのは社員の質の低下の傾向の一つであり、Aクラスの人間を雇い続けることに失敗したと明言しているように聞こえる。
「官僚主義を根絶し、青年期の機敏さの復活に専念する」とうたうものの、理念に立ち戻って原点回帰するというような話は殆どなく、どのように携帯電話市場でiPhoneと対抗するか、どのようにFacebookへの巻き返しをはかるかというような競合戦略ばかり。記事を書いているのがBloombergなので、Googleではなく、逆にBloombergのまとめ方に問題があるのかもしれないが、それにしてもいまいちな内容だった。


それと対照的なのが岩田社長のインタビュー記事。「3DSの目標出荷台数は?」というお決まりの質問に対して、

台数は結果です。我々の提案が魅力的で、価値が出費に見合うものであると判断して頂ければ結果がついてくるでしょう。
<中略>・・・ハードとソフトが売れて上場企業として評価してもらうという側面とは別に、長期目標としてゲームを理解して楽しんでもらう人を増やしたいのです。
日経ビジネスの2011年2月11日号』 P.32

とさらりと言ってのける。
ソニーが次世代携帯型ゲーム機を発表して競争が激化するが・・・」という記者の突っ込みに対しても、

ソニーさんの製品については分かりませんが、世の中に方向性の違う提案が複数あると、多くの方に話題にして頂きやすくなります。うまく盛り上げていけるといいなと思いますね。
日経ビジネスの2011年2月11日号』 P.34

とこれまたさらり。業界全体を互いに活性化させることができれば良いと思います、という姿勢は攻撃的なアメリカのCEOからはあまりでてこない発言だ。3DSという新製品投入にあたって、気負うどころか、理念の実現に向け努力するだけです、というたんたんとした姿勢を貫けるのは器の大きさだろう。
この2つのコメントをみるに、岩田さんという方は「ゲーム人口増大」という理念に対して一点のぶれもない、ということがよく伝わってくる。Google 3.0というタイトルの記事で、「世界中の情報を整理し尽くす」という理念が一度もでてこなかったGoogleとは対照的だ。


もちろん、私はGoogleが嫌いなわけではないし、期待もしている。私の上記のコメントが的外れな外野の野次であり、あっと驚くような策を講じてくれることに対して期待をしている。ぶれない任天堂とぶれているように見えるGoogle今年、引き続き注目して見ていきたい。

*1:そもそも、原文のタイトルは”Laary Page’s Google 3.0”。原文のタイトルを掲載せず、こんな”つりタイトル”をつけるなんて日経ビジネス許せん

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