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『ビジョナリーカンパニー3 衰退の五段階』 アメリカ型経営の罠

ビジョナリーカンパニー3 衰退の五段階

ビジョナリーカンパニー3 衰退の五段階

ジェームズ・コリンズによる『ビジョナリー・カンパニー』の3作目。第1作では時代を超えて偉大さを維持し続ける企業に共通の法則が、第2作目では単なる優良から偉大な企業に昇華する上での共通の法則が描かれた。そして、今回は副題が示す通り、偉大な企業が凡庸な企業に転落する(場合によっては倒産し、消滅する)際の法則が記されている。


企業がどのように衰退の道をたどるのかと問われると、「現在の地位に安住し、市場の変化を見逃し、その環境の変化に対応できなく衰退していく」というのが一般的な見方だと思うが、本書はこれを否定する。では、何が原因なのか。

確かに、自己満足に陥り、変化やイノベーションを拒否するようになった企業はいずれ没落する。しかし、ここが意外な発見なのだが、今回、調査対象とした企業は衰退していったとき、自己満足に陥っていたことを示す事実がほとんどないのだ。かつて無敵だった企業がどのように自己崩壊していくのかを説明するには、拡張しすぎのほうがはるかに適切である。
『ビジョナリーカンパニー3 衰退の五段階』 〜第四章 第二段階 規律なき拡大路線P.88〜

本書は、「拡張のしすぎ」が原因だという。これは非常に興味深い。本書の付録には、衰退した企業がどのように事業を拡大していったのかが、具体的に記されている。大型買収を繰り返すことにより売上高を5年で5倍にした(エームズ)、売上が5億ドルまでの新規事業を一からたちあげた(サーキットシティ)、新製品を続々と投入して過去2年間に発売した製品で売上高の70%を稼いだ(ヒューレットパッカード)、年間の特許取得件数を613件から1016件に伸ばした(モトローラ)、など一見すると成功といえそうな施策が並ぶが、本書は膨大な事例に対する分析を下に、これらの企業の活動を中核事業をないがしろにして「興奮をよぶ新事業」に飛びついた規律に欠くものと結論付けている。


本書は企業にあてはまる普遍的な法則を見いだそうとしているが、一見すると良さそうな施策が沢山うたれ、それが原因で衰退の道を辿る企業が多いというのは直感的には如何にもアメリカ的だ。もちろん、日本企業や他の国の企業にも当てはまる場合もあるとは思うが、この仮説をみるにウォールストリートの投資家とMBAホルダーの経営者という二つのアメリカの経営環境の特徴が思い浮かぶ。


アメリカの公開企業というのは良くも悪くもウォールストリートからの四半期毎の短期的な業績へのプレッシャーにされされている。四半期毎に財務諸表という成績表を提出し、短期的に利益をだすこと、そしてそれを実現する施策を講じることができるか否かを厳しく問われる。経営者が一定の成長率にコミットできなければ、それをコミットできる他の経営者に経営を任せるまで、という一貫した成長志向というのは日本とは少し異なる。
十分優良な企業が中核事業から外れた「興奮をよぶ新事業」に手をだし、追い立てられるように成長を追求する理由の一つとして、このプレッシャーの極端なまでの強さが理由の一つであることは間違いない。「興奮をよぶ新事業」を数多くやっていれば、短期的な数字の悪さに対して施策をうっている感をだすことができるし、そういったマスコミ映えする施策が矢継ぎ早にうたれないと、この経営者は無能だというような烙印をおされかねない。ただ、残念なのはウォールストリートの投資家なんて数字の分析をできても、現在実施している施策の評価を適正にできるわけではない。例え1〜2%であっても(場合によっては短期的にはマイナスでも)中核事業の成長を粘り強く、地道にやり抜くよりも、短期的にはPERが最大化されるような施策を強烈に求められるという土壌がこの傾向を助長していることは間違いない。


また、イノベーションの追求、ゲームのルールの転換などのMBAの教科書のセオリーに従って安直に正当化される施策が沢山並んでいる点が如何にもアメリカらしい。ケーススタディを下にした実践的な経営の学習というのがMBAの一つの売りではあるが、実践的と言っても「当たり前のことを地道に当たり前に長期間やり続ける」という最も大事なことまで実践的に教えられるわけではない。


私は、短期的な業績に対してプレッシャーがあることやMBAのような経営者養成のための教育機関が充実していることを否定しているわけではない。定量的な企業体力の評価と適切なリストラを継続的に実施することの重要性はJALの現状などを見ると火をみるより明らかだ。ただ、何事も良い面と悪い面があり、アメリカ型経営の仕組みの悪い面を上手くコントロールしきれずに、敢えなく衰退の道をたどった企業の陥った罠が本書でまとめられていると見ることができる。
株主志向の経営というのは日本でも徐々に浸透しつつあるが、上記のような点から本書はやはりアメリカ企業向けと私は思う。アメリカ本社から戦略がいっぱいふってくる、米系外資系企業に勤める人は手にとって読むべきだろう。

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