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アメリカ西海岸の片隅から、所々の雑感、日々のあれこれ、読んだ本の感想を綴るブログ。

『志高く 孫正義正伝』 孫正義のできるまで

『志高く 孫正義正伝』を読んだので書評を。

志高く 孫正義正伝 完全版 (じっぴセレクト)

志高く 孫正義正伝 完全版 (じっぴセレクト)

本書はジャーナリスト井上篤夫氏が、孫正義の半生を十数年にわたって取材した上でまとめあげた公認の「孫正義物語」。ソフトバンク創業前の少年時代からバークレー校卒業までに半分のページをさくと共に、創業後もヤフージャパンを設立する創業15年目くらいまでに多くのページがさかれている。ソフトバンクと言えば、日本にブロードバンド革命を起こし、モバイル・インターネット環境を整備したというイメージが強いが、筆者はそういった「事を成す」レベルになるまでの過程により焦点をあてている。そういう点で、本書が描いているのは、ソフトバンクという会社の成功物語ではなく、ソフトバンクという会社をアウトプットした孫正義という人間がどのようにできあがったのかという「孫正義のできるまで」とみるほうが自然だろう。


薄氷を踏むような勝負の連続、勝ったり負けたりしながらもここ一番の勝負では必ず勝利を収める勝負強さ、その勝利を支える溢れる才能と血のにじむような努力、レベルアップを重ねる毎に大きくなっていく勝負のステージ、こういったスラムダンクのような少年漫画的なストーリー展開とその場のシーンが映像として浮かんでくるような筆者の臨場感溢れる表現力に引き込まれ、300ページを超える長編ではあるが2日とかからず読み終わった。私は孫正義についての本を読んだのは、実は初めてなのだが、今年読んだ本の中では読み物としては最高クラスに面白い。アマゾンの書評などをみると他の著作とかぶる部分が多いとの指摘が多いが、私と同様に孫正義についての本を読んだことのない人は、ご本人公認なので本書を読むのが一番よいのではないか。


孫正義という人物の能力は常人のそれを遥かに超えている。時代の先を見通す高い先見性と深い洞察力、掲げたビジョンに対して全くぶれない徹底した一貫性、各分野のナンバーワンを動かす燃えるような情熱、どんな困難に直面してもやり抜く強い実行力、文字通り命をかける凄まじいまでの覚悟、現状に甘んじることなく常にリスクをとり続けるチャレンジ精神、などどれをとっても超一流であり、その凄まじさが本書ではありありと描かれている。正直、私とはレベルが違い、ゴルフの腕も含めてとてもかないそうもない。ただ、不思議なのは本書を読んだ後に覚える感覚は、手の届かない別次元にいる人間に対する羨望感ではなく、自分も今日から頑張ろうという力強い自分の内なる活力だ。何故そういった感覚を覚えたのか考えるに、本書の下記のPhraseに理由があるように思う。

少年孫正義は、本能寺の変に倒れた信長と、京都市中で非業の死を遂げた龍馬に胸をえぐられるような悲しみをおぼえた。・・・<中略>
正義は寝ても覚めても龍馬に夢中になった。・・・<中略>
一回きりの人生を龍馬のように思い切り生きてみたい。高校進学を控えて、正義は人生を真剣に考えていた。
血湧き肉踊るような人生。信長のように。龍馬のように。
正義は自分の周囲をみまわしてみた。・・・<中略>
みなそれぞれが豊かな生活を送っている。だが、それでいいのだろうか。ただ、毎日飯を食べて、やがては死期を迎えるような人生を送りたくない。
志高く、堂々と人生を歩んでいきたい。龍馬のように。

『志高く 孫正義正伝』 〜志士のごとく P.125〜

そう、結局孫正義の全ての能力の源泉となっているのは「一度きりの人生を後悔なく思いっきり生きてみたい」という誰しも持ちうる普通の想いなのだ。確かに、天才と言われるような才覚は持っているかもしれない。ただ、彼と普通の人を分けるのは持って生まれた才能より、「人生は一度きり」という事実に対してどれだけ真摯か、どれだけ純粋かつ真面目にその誰もが直面する事実に取り組んでいるか、のみだということが本書を読むとよくわかる。だから、素直に自分だって同じ想いを持っているのだから頑張ろうと思えるのだろう。本を読んで目から鱗が落ちることはよくあるが、目が覚めるような爽快感をおぼえ、自分の行動力を停滞させていた何かが崩れ落ちていく感覚を感じることは非常に少ない。本書は、後者の読後感を覚える希有な一冊だ。シルバーウィークに読む本を探している方、お勧めなので是非手にとってみて欲しい。

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