Thoughts and Notes from CA

アメリカ西海岸の片隅から、所々の雑感、日々のあれこれ、読んだ本の感想を綴るブログ。

『「思考軸」をつくれ』 出口というオヤジは噂通り器がでかい

『「思考軸」をつくれ あの人が「瞬時の判断」を誤らない理由』を読んだので書評を。

「思考軸」をつくれ-あの人が「瞬時の判断」を誤らない理由

「思考軸」をつくれ-あの人が「瞬時の判断」を誤らない理由

筆者はライフネット生命保険社長の出口さん。本書の特徴は何といっても出口さんという人物の器の大きさにふれることができることだろう。タイトルは自己啓発本チックであり、内容もそれに類する部分もあるが、「目から鱗が落ちて今日からすぐに実践できます」的な話より、「原理原則に立ち返ること」と「遠回りであっても原理原則に従って行動すること」の重要性が出口節で語られており、そちらのほうが強く印象に残っている。


本書の中で質の高いアウトプットを如何に創出するか、というテーマが語られている箇所がある。通常の自己啓発本であれば、発想法やロジカルシンキングのような事柄が紹介されるが、出口さんはもっと根本的なところに立ち返る。

解決策としてそういう本を読むことは有益なことでしょうが、私はそれより先にやることがあると思います。それは「インプットの絶対量を増やす」ということです。私が見る限り、日本のビジネスパーソンはインプットが質・量ともに少な過ぎます。仕事が思うようにいかないのはたいていの場合、インプット不足に原因があるといってよいと思います。つまり、技術やノウハウ以前の問題なのです。・・・<中略>
そうやってインプットの蓄積を増やしていくと、あるところを境にして、あたかも水槽の水があふれ出るようにラクにアウトプットができるようになる瞬間がきます。そうならないうちはまだまだインプットが足りないのです。
『「思考軸」をつくれ』 〜「多様なインプット」で直感と論理を磨く P.86〜

要するに「たいしてインプットしてないんだから、大層なアウトプットなんかでるわけないだろ」ということ。そして、上記のように一刀両断した上で、本書の最後に歴史書を中心とした20作品が役立つ本一覧としてあげられている。アメリカ、インド、中国、イスラム世界、ヨーロッパ、そして日本の歴史を理解するのに欠かせない筆者一押しの本が並べられ、どれもかなり読み応えがありそう(ちなみに、読んだことがあるのは半藤一利の『昭和史』だけだった・・・)。「小手先の技術やノウハウを学ぶ前に、自分の住んでいる世界についての最低限の知識を身につけておくのはビジネス・パーソンとしての素養だろう・・・」と言われているようで、何とも耳が痛い。
本書では、歴史に学ぶ「タテ思考」と他国に学ぶ「ヨコ思考」が紹介されている。こういった考え方自体はそれほど目新しいものではないが、豊富なインプットを備えた筆者の手にかかると、全く違った彩りをみせる。例えば、少子化問題」を紀元前1500年前のバビロンを引き合いに出して語ってみたり、国毎の経済力を語るのに過去2000年のGDPのトレンドに目を向けてみたり、紀元前1000年の世界の人口の多い都市ランキングをだしたり、とにかくスケールが大きいし、視点が高い。これは「視点を高く持とう」というご本人の意思というより、豊富でバリエーションに富んだインプットによって支えられていることは一目瞭然だ。なんか、「こんな本読んでないで、巻末にあげてある本をさっさと読みなさい」と言われているような奇妙な感覚すら覚える。


もう一つ筆者の器のでかさを示す箇所を引用してみる。

それまでずっと「日本の生命保険業界をなんとかしたい」という思いはもち続けていたものの、自分ではそれは果たせないままに終わるだろうと思っていたのです。だからこそ、「遺書」にあたる本(『生命保険入門/岩波書店』)も書いたのです。思いがかなわなくとも、あとから誰かがこの本を読んで私の意思を継いでくれればいい、そうした気持を込めました。
『「思考軸」をつくれ』 〜私が「0.1%」に賭けられた理由 P.4〜

今でこそ日本初のネット専業生保を立ち上げ、業界に旋風を起こしている筆者であるが、「こりゃ、自分は日本の生命保険業界を原点に戻せそうもないな」とあきらめた時期もあるとのこと。『生命保険入門』は、生命保険の仕組みから日本の業界の構造・課題までを書きおこしたことで定評のある本だが、その本にこめられた想いが「誰かがこの本を読んで自分の意志を継いでくれればいい」という「遺書」にあたる本というのだからふるってる。時間と空間を超えて「公」のことを考え続ける人でありたい、という筆者の想いが『生命保険入門』という本をうみ、偶然か必然かはわからないが筆者が業界再編のために起業するチャンスを呼び込み、そして若くて優秀な旅の仲間がライフネット生命に呼び寄せた。やっぱりでかい器には、相応の料理が並ぶのだと、強く感じ入った。


自分の器をでかくするには、自分より器のでかい人間に接する以外に方法はない、というのが私の持論なんだが、本書はそういった意味では、器のとびきりでかい出口というオヤジに触れる絶好の機会と思う。普通の自己啓発本に食傷気味の人にはおすすめの一冊。


余談だが、本書が面白いのは、各章の頭で内容とはあまり関係のないライフネット生命社員による社長紹介が記載されている点。過去の偉人の一言から各章がスタートするというのはよくあるが、出口評から始まっており普通ではない。副社長の岩瀬さんの『生命保険のカラクリ』は自社のマーケティングも兼ねた本だったが、本書は自社のリクルーティングも兼ねている、とみるのはひねくれているだろうか?

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