『コーチングのプロが教える 「ほめる」技術』を読んだので書評を。
- 作者: 鈴木義幸
- 出版社/メーカー: 日本実業出版社
- 発売日: 2009/10/08
- メディア: 新書
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本書は、タイトルに「ほめる」技術とうたっているが、取り扱うテーマの範囲は「ほめる」ことにとどまらない。
目的地が決まり、自己説得により取るべき道が決定され、その人が動き出したとしても、最終的に目的地にたどりつくためには「エネルギー」が供給され続ける必要があります。
では、自分がコーチや上司、親などの立場だったとして、そのエネルギーを相手にどう供給し続けることができるのでしょうか。それがこの本のテーマであり、みなさんに送り届けたい知識、技術です。
コーチングではそのエネルギー供給のことを「アクノレッジメント(acknowledgment)」といいます。このアクノレッジメント、つまりエネルギーの供給回数が多ければ多いほど、供給方法にバリエーションがあればあるほど(レギュラーガソリンで動く人もいれば、経由で動く人もいるわけですから)、相手をより遠くまで、ひいては目的地まで動かすことが可能になります。
『コーチングのプロが教える 「ほめる」技術』 〜はじめに〜
と、前書きにあるように、人にいかにエネルギーを与え、人をいかに動かすか、ということが本書のテーマ。「人を動かす」というテーマの決定版と言えば、なんと言ってもデール・カーネギーの『人を動かす』。本書は原則論ついては『人を動かす』とほぼ同様のことをいっており、それ以上のことを語っているわけでもない。
だが、現代的な視点でその原則論をかみくだき、日常的に活用し、自らの行動をかえるための具体的な手順やアイデアを本書は提供している。「『人を動かす』を読んでみたものの・・・」という方は是非本書を手にとるべき。
日常的に活用するための手順という点をもう少し具体的に見てみる。多様性のあるアクノレッジメントで人にエネルギーを与えるというのが、本書のテーマであるが、紹介されるアクノレッジメントの手法も、「本当にほめる」、「任せる」、「相手の影響力を言葉にして伝える」、「修飾せずに観察を伝える」、「頻繁に頻繁に声をかける」など、多岐にわたる。そして、その一つ一つが、非常にわかりやす具体例とともに説明されている。例えば、「本当にほめる」というセクションでは、ドジャースのラソーダ監督のエピソードと共に、ほめることが効果的なアクノレッジメントに昇華するシーンが下記のとおりわかりやすく解説されている。
ほめるというのは、ただ「すごい!」「すばらしい!」という美辞麗句を投げかけることではない、と。相手が心の底で、他人から聞きたいと思っている言葉を伝えて初めて、「ほめる」という行為は完結すると。
だから彼は観察と試行錯誤を大切にします。
例えば、ジョンという選手がヒットを打ったとします。するとラソーダ監督はいいます。
「ジョン、お前は天才だ!!」
ところがジョンは顔色一つ変えません。淡々と「サンキュー、ボス」と返しただけ。これは違うなとラソーダ監督は思います。
しばらくしてまたジョンがヒットを打ちます。今度はラソーダ監督は違う言い回しを試します。
「ジョン、あの低めのストレートをよく軸をぶらさずに振りぬけたな」
ジョンがほんのちょっぴり笑みを漏らすと、ラソーダ監督は思います。「これだ」。・・・<中略>
ほめることは技術です。何気なく人がほめられるかというと、そんなことはありません。相手をよく見て、相手が日々どんなことを思っているのかを洞察して、どんな言葉を投げかけられたいのかを熟慮して、初めて「ほめ言葉」は発せられるべきものです。
『コーチングのプロが教える 「ほめる」技術』 〜認めること、ほめること P.38、39〜
人によってどんな言葉を投げかけられたらエネルギーになるかは違う。その違いを日々観察しつつ、熟慮して、効果的な言葉を投げかけることが、重要であり、それができることが「本当にほめる」ことである、という点は強く納得できる。
様々なアクノレッジメントの手法を紹介した後、本書は下記のように結ばれている。
アクノレッジメントは、いってみれば生き方ですから。二種類の人しかいないんですよ。すきあらば人のアクノレッジメントをしようと思って生きている人と、いつ自分はアクノレッジメントされるんだろうとずっと待っている人と。
『コーチングのプロが教える 「ほめる」技術』 〜アクノレッジメントで何が変わったのか P.159〜
前者のような考え方に共感を覚える人、生き方を指向する人にとっては本書は非常におすすめ。