Thoughts and Notes from CA

アメリカ東海岸の片隅から、所々の雑感、日々のあれこれ、読んだ本の感想を綴るブログ。

インドの巨大システムインテグレータのはなし

以前、"インドのIT業界の階層構造事情"というエントリーを書いた際に、とある人気ブログの管理者の方から下記のような質問を受けた。

  • 会社全体の組織体系はどのようになっているのか
  • プロジェクトの進め方、チーム構成はどのようになっているのか
  • プロジェクトの契約体系はどのようになっているのか

質問を受けた時はあまり詳細に答えることができなかったのだが、先日同僚のインド人と直接会う機会があり、上記の質問を酒を飲みながらぶつけてみたので、そこで話した内容をこの場で共有したい。

会社全体の組織体系はどのようになっているのか

上述のエントリーで紹介した通り、TCS、Infosys、Wipro、HCLといったインドの代表的な巨大システムインテグレータは殆どが10万人以上の従業員を抱える。その巨大組織をどのような組織体系で効率的に運営しているのか、より具体的にポイント絞れば案件毎に個別最適に走りがちで、組織を横断してのノウハウの共有が十分にできていない、というありがちな悩みを巨大組織においてどのように解決しているのか、というのが質問の趣旨。
「日本ではお客様のインダストリー毎にソリューションを描く"縦軸"と、会計とかロジとかのオファリング毎に描かれたソリューションを実装に落とし込む"横軸"があって・・・」という話をしたところ、えた答えは「インドでもそれは変わらない」とのこと。
例えば、紹介されたのはTCSのWikipediaのエントリー。

TCS embarked on a restructuring exercise in April 2008, which company executives claim will allow TCS "to build a nimble organisation to capture new growth opportunities"36. The new structure divides the organization into the following business units:

  • Industry Verticals: Banking, Financial Services, Insurance, Manufacturing, Telecom, Media, Entertainment, Hi Tech, Transportation, Travel/Hospitality, Retail, Utilities, Energy/Resources.
  • Horizontals: Engineering Services, BPO, Infrastructure Services, Consulting, Financial Solutions.
  • Markets: Mature Markets, New Growth Markets, Emerging Markets

TCSは2008年4月に組織の再構築に着手をした。TCSの幹部は「TCSは成長の機会を確実にとらえるために、より機敏な組織を構築した」とほこる。新しい組織の元では、組織は下記のように構成される。

  • Industry Verticals: 銀行、金融サービス、保険、製造業、テレコム、メディア、エンターテイメント、ハイテク、運輸、旅行/サービス業、小売、公共、エネルギー
  • Horizontals: エンジニアリングサービス、BPO、インフラサービス、コンサルティング、金融ソリューション
  • Markets: 成熟市場、成長市場、新興市場

金融を一くくりにしないで、製造業と同じレベルに3分割しているとか、横軸にすべてのITサービスがフルラインでそろっているとか、若干の違いこそあれど、その組織構成は日本のSIerと殆ど変わらない。

This will create a framework that is scalable for growth across markets and provide focus on strategic initiatives like asset-leveraged solutions, platform-based BPO as well other new initiatives,
この新しい組織体系は、市場全体にわたる成長に十分に対応できるものであり、またアセットを活用したソリューションやプラットフォームを基盤としたBPOのような戦略的な施策にフォーカスすることを意図したものである。

上記はWikipdiaのリンク先の記事のTCSのCEOの言葉であるが、狙いも内容も何気に新奇性はない。
「特定のプロジェクトのノウハウが全社的に共有されることは重要な反面、組織が大きくなればなるほど難しくなり、ナレッジベースや社内勉強会などの仕組みを使ってもなかなか難しいと思うが、こういう問題にはどう対応しているのか」と食い下がって質問してみると、「もちろん情報共有ツールを活用するし、それが難しいのはインドのSIerでも全くもって同じこと。ただ、難しいと言っても個別にみれば解決不可能なほど難しくないし、そういう難しいことをどれだけ徹底してできるかこそが、会社や個人の強さをあらわし、他との差別化となる」と。目から鱗はおちないが確かにおっしゃるとおり

プロジェクトの進め方、チーム構成はどのようになっているのか、そして契約体系はどのようになっているのか

構想策定と実装を大きく二段階に分けて進めるのが日本流とは思うがインドでも同様なのか、またその2つの段階で必要なスキルセットが異なり、人が入れ替わることで、システム的に実現の難しい妄想が策定され実装段階で炎上したり、もしくは構想の肝となるコンセプトが技術的な安易な妥協により骨抜きになる、なんてことはないのか、という2点を聞いてみた。
で、えた答えが「インドでは一社で構想策定、実装をすべてやることは多いが、プロジェクトとしては別のステージ・契約として当然取り組む。また、その間に人が入れ替わったりすることもよくあるし、お客さんが入札を望むことによって実装が別の会社で実施されることもある。構想段階の要件が技術的に実現が困難だったり、実装段階でよれて骨抜きになるという問題も往々にして発生する」とのこと。まぁ、要するに日本と大差はないとのこと。ただ、「実装まで経験したことのある人が構想策定のステージからオーバーラップして実装にも参画するとか、構想策定段階で提起されたビジネス上の課題をきっちり理解しよれないように実装段階のプロジェクトマネージャがきちんとプロジェクトをリードするとか、そういう属人的な要素で解決を図ることが多いように思う。でも、結局そこに参画するプロフェッショナルのスキルがプロジェクトの成功を左右するということであり、それは当たり前のことではないのか。だから、インドでは優秀な人間は高額でどこのSIerでも引っ張りだこだ」とのこと。まぁ、人に依存するというと身も蓋もない気がするが、そういう一流の人材を内部と外部の労働市場で適正に評価する土壌がそなわっているというあたりが強いて言えば日本との違いか・・・。


結局、頂いた質問に対して、インドのシステムインテグレータが固有に「うまく」解決しているということはあまりなかった。ただ、熾烈な競争を生き抜くために、必然的に発生する各種の難しい問題を乗り越える能力こそが差別化の要因である、という割り切りを持っているという点は、私の知っているSIerに勤める人と大分違うという印象を受けた。
同僚と酒を飲んでいる中で、1点インドと日本で決定的に違う点を見つけたのだが、長くなったので次回のエントリーで。

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