Thoughts and Notes from CA

アメリカ東海岸の片隅から、所々の雑感、日々のあれこれ、読んだ本の感想を綴るブログ。

自動化、システム化についての雑感

現在アメリカ出張中で、先週1週間は自社の様々な業務の改善、改革についてアメリカの各担当者と情報共有、意見交換を行った。その中で再認識したのが、アメリカ人の自動化に対する飽くことのない欲望。「テクノロジーを活用すれば、機械に置き返ることできるのに、それを手でやり続けることは悪」という考えを持っている人が非常に多い。日本人の感覚からすれば、「まぁ、そんなに自動化にこだわらなくてもいいんじゃない?」と思うようなことついても、「そんな手作業を我慢しているなんて信じがたい」というような反応が返ってくることがしばしば。例えば、私は週ごとのトレンドなどを分析するために、毎週10分程度の時間をかけてシステムからその週のフォーキャストのスナップショットを抽出して、スプレッドシートに保存しているのだが、その話をしたら「Very painful work!」と一様にものすごい嫌な顔をされた。まぁ、自動化するにこしたことはないけど、「あなたはとても忍耐強いのね、そんなこと私にはとてもできないわ・・・」と肩をすくませるほどのことではないと思う。


私は業務の改善や再構築を生業として結構長い。その経験から言えることは、自動化は確かに手元の業務を簡単に改善するためには非常に有効だし、自動化による「改善の機会」は組織の色々なところに存在するが、他部署と重複している業務をそもそも無くしてしまったり、ビジネスの状況が変わり今となっては形骸化して不要になった業務を取り除くという類の「改善の機会」のほうが、組織の中にははるかに多い。なので、手元の業務を自動化することに固執するアメリカ人の姿勢は実はあまり好きになれない。


そんなアメリカ人との会議の中で、「おぉ、こういう考え方の人もいるんだ」と思ったことがあった。かなり年配の女性と打ち合わせをしている時に、若い人を前に彼女が言ったのが、「自動化やシステム化っていうのは、まず自分で実際に手で自分でやってみて、痛みを感じてからやったほうが効果があるのよ。自分で実際に試しに手でやってみて、その業務を自分なりに消化する前にシステム化すると、うまくいかないことが多いのよ」、ということ。まさにその通り。*1


行きの飛行機の中で読んだ本田宗一郎の『俺の考え』に下記のようなことが書いてあった。

俺の考え (新潮文庫)

俺の考え (新潮文庫)

設備はカネを出せば必ずできるのだから急ぐことはない。それよりむしろ設備の前の段階が一番大事である。みんながとてもできない、どんなアイデアを出してもこの機械がどうしてもいるんだというときに、はじめてその設備が有効に動くものになると思う。・・・<中略>
ほんとうに苦しんだ人々のみ設備投資は与えられるものであり、生きるものである。
『俺の考え』 〜警戒すべきは投資レース P.128〜

1960年代にアメリカ企業にならって多くの日本企業が最新の設備を向上にどんどん導入しようとしていることに対して警鐘をならす意味合いで書かれた文章だが、これは前の話に通じることと思う。必要性というのは、苦しみや格闘の中から生まれるものであり、思いつきであれも自動化、これもシステム化と手をつけると、整合性がとれなくなったり、身動きがとれなくなったりしがちと思う。


うちの会社のアメリカ人のおばちゃんが本田宗一郎と同じとまでは思わないが、アメリカ人の中にもなかなか話しのできる人がいるもんだと、少し安心できた。

*1:もちろん、BPRのように、最新のテクノロジーを使って業務を一から再構築したらどうなるか、というアプローチをとる場合は、これはあてはまらないと思う。だが、BPRのようなおおがかりな施策を講じた後にも不断の改善を積み重ねていかなければならず、そういう改善活動を実施する時にはこの女性のコメントは頭におくべきことと思う。

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