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アメリカ西海岸の片隅から、所々の雑感、日々のあれこれ、読んだ本の感想を綴るブログ。

『ヒトデはクモよりなぜ強い』 「ヒトデ型」をありのままにとらえる

遅ればせながら『ヒトデはクモよりなぜ強い』を読んだので書評を。

ヒトデはクモよりなぜ強い

ヒトデはクモよりなぜ強い

本書では、階層的な指揮命令系統が定められている組織を「クモ型」、権限が極度に分散している階層構造を持たないネットワークの総体を「ヒトデ型」と呼んでおり、「ヒトデ型」を「ヒトデ型」たらしめるものは何で、「ヒトデ型」を有効に機能させる要素は何かの解明を試みている。
中央集権型組織と分権型組織の対比を試みている本は巷にあふれているし、本書で取り上げられる例は、グロックスター、ウィキペディア、クレイグスリストとおなじみのものが多く、左端に中央集権組織、右端に分権組織を配し、左から右に分権化が進むと何がおきるのか、という視点も語られつくされた感があり、正直はじめはかなり退屈だった。
だが、よくよく読むと、本書は「ヒトデ型」を、集権から分権への連続線上でとらえるだけでなく、「ヒトデ型」そのものをありのままにとらえようと試みていることがわかる。第4章では、その連続線上から離れ「ヒトデ型」を「ヒトデ型」たらしめる5つの構成要素が下記のようにまとめられており、非常に読み応えがある。

  • サークル(Circle:階層ではなく、共通の文化や規範によって結びついているグループ)
  • 触媒(Catalyst:サークルを創設し、軌道にのせ、権限をメンバーに委ねる人物)
  • イデオロギー(Ideology:分権型の組織をまとめる接着剤の役割を果たす価値や信念)
  • 既存のネットワーク(The Preexisting Network:サークル創設以前に存在した別のサークル)
  • 推進者(The Champion:アイデアやビジョンを実行に移す人物)

上記の構成要素は、中央集権型組織との対比というより、むしろグループ化されない不特定多数の個々人と「ヒトデ型」との差を浮き彫りにしており、その視点が大変興味深い。
そして、「ヒトデ型」をありのままにとらえよう筆者の意思が第6章で、分散型組織と如何に戦うかという他に見ないテーマを導く。本書では3つの方策が紹介されており、どうすれば「ヒトデ型」に対抗できるかだけでなく、音楽業界はP2Pネットワークとの戦いでどんな間違いをおかしているのか、についても言及されており、非常に面白い。本エントリーでは詳述はさけるが、「ヒトデ型」との戦いに苦慮している人だけではなく、「ヒトデ型」を嗜好する人も必見の内容と言える。


人が階層組織になんてものを作るずっと以前から地球上にヒトデは存在していたわけだし、また階層組織を考え出した人間の脳自体もいわゆる「ヒトデ型」だ。そういう点で「ヒトデ型」の歴史は「雲クモ型」よりはるかに長く、「ヒトデ型」をいう形態をとるということは原点回帰であり、中央集権型との連続線上だけで「ヒトデ型」理解しようとすると本質を見誤るという大事なことを本書は気付かせてくれる。
最近、旬を過ぎた「つん読」状態の本を消化することが多く、賞味期限切れの味にうんざりしていたが、本書は今もって読む価値が十分にある。『ウィキノミクス』を読んだけれども、本書をまだ読んでいない人にはお勧めの一冊。

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