Thoughts and Notes from CA

アメリカ西海岸の片隅から、所々の雑感、日々のあれこれ、読んだ本の感想を綴るブログ。

『コーチング・マネジメント』 いかにして自発的行動をうながすか

コーチング・マネジメント』を読んだので書評を。

コーチング制度を導入している会社は結構多いと思うし、私が以前勤めていた会社でも制度として存在した。ただ、コーチングという制度は、私の中では導入がなされ、時間もそれなりに使っているものの、あまり効果のあがっていない人事施策の一つのように思う。立派な金科玉条が掲げられるものの、会社全体としては効果にばらつきがあり、気付いたら制度として消失していた、という印象が強い。
本書を読めば、なぜ世のコーチング制度がそれ程機能していないかがよくわかる。コーチングという言葉は耳慣れているが故に逆に世の中できちんと理解されておらず、コーチングそのものに非常に高いスキルが求められるのに、コーチの要請に対しては驚くほど時間が使われていないからだ。


筆者は国際コーチ連盟のマスター認定コーチの伊藤守氏。会社の方に勧められたので読んでみたのだが、ここ一年くらい読んだ本の中で最も目から鱗を落ちた本といって間違いないコーチングという言葉をいかに自分が理解していなかったか、そして自分のコーチング・スキルがいかに低いかを痛感することとなった。

今求められているのは、話を聞くのがうまいリーダーでありマネージャーです。そして、そういうマネージャーは、圧倒的に少ないのである。コーチングとティーチングは違います。コーチングは教えるのではなく、引き出し、考えさせます。相手の自発的な行動を引き出すのです。
コーチング・マネジメント』 〜ティーチングからコーチングへ P.62〜

まず、「コーチングとは教えることではない」とばっさり著書は切る(厳密には切らただが・・・)。コーチングと称して、相手の改善点を指摘したり、なすべきこと、正しい答えを相手に伝えるというシーンはよく見られるが、伊藤氏によればそれはコーチングではなく、ティーチングなのだという。自分で考えさせ、自分の中にあるリソースを引き出させ、自発的な行動に結びつける、それがコーチングだと。


そして、本書の魅力は、「自発的な行動に結びつける」という原則論に終始することなく、具体的にどのように質問をし、どのように相手から引き出し、どのように行動に相手がうつれるように支援するのかという点がこと細かに書いてあることだ。
特に『Part3コーチング・スキル』の『クリエイティヴ・クエスチョン コーチは行動を起こす質問をつくり出す』は圧巻で、相手の自発的な行動をつくり出す上での効果的な質問のための、理論、技術、具体例が惜しげもなく公開されている
例えば、私はコンサルティング会社に勤めていたため、「なぜを5回繰り返せ」とはしつこくすりこまれたものだが、本書では「なぜ」という質問について下記のように解説する。

「WHY?(なぜ?どうして?)」は、一見オープンクエスチョンの形を取りながら、事実上、相手を詰問するクローズド・クエスチョンとして用いられていることが非常に多いように思います。<中略>・・・。
「なぜ、そんなミスを犯してしまったんだ?」というクローズドな質問に対して、この失敗から学んだことや新しいアイディアを引き出す質問をすることもできます。
・「HOW?」を使う
「どうやったら、同じ失敗を繰り返さないですむと思う?」
「次はどういうふうにやる予定?」

・「WHAT?」と使う
「何が足りなかったんだろう?」
「何か気がついたことはなかった?」
WHAT(何が?何を?)と使うことで、問題の奥にある潜在的な問題点をはっきりさせることができます。HOW(どのように?どうやって?)はその潜在的な問題に焦点を当てて、発展させることができます。一般的にはWHATが問題をはっきりさせ、HOWがアイディアを発展させていきます。
コーチング・マネジメント』 〜クリエイティヴ・クエスチョン P.190-192〜


他にも色々紹介したい点があるが、とても全ては紹介しきれない。

人を動かす 新装版

人を動かす 新装版

人を動かす秘訣は、この世に、ただ一つしかない。この事実に気づいている人は、 はなはだ少ないように思われる。しかし、人を動かす秘訣は、間違いなく、一つしかないのである。すなわち、みずから動きたくなる気持を起こさせること――これが秘訣だ。
『人を動かす』 〜重要感を持たせる P.33〜

デール・カーネギーの『人を動かす』の上記の一説をを読まれ、共感された方は多いと思うが、本書の中には「では、どうやって、みずから動きたくなる気持を起こさせるか」というノウハウが凝縮されている。ティーチングではなく、コーチングに興味のある方にはお奨めの一冊だ。

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