『孫子の兵法』を読んでみた。
- 作者: 守屋洋
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例えば、
季康子、盗を患(うれ)う。孔子に問う。孔子対(こた)えて曰く、苟(いやし)くも子の欲せざれば、之(これ)を賞すと雖(いえど)も窃(ぬす)まざらん、と。論語 (角川ソフィア文庫―ビギナーズ・クラシックス 中国の古典)
- 作者: 加地伸行,谷口広樹
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季康殿が盗賊が多いのを患えて孔先生に対策を質問した。孔先生はこうお答え申し上げた。「貴台が不欲でありますれば、たとい盗みを誉めましても、だれも盗みなどいたしますまい」と。
『論語』 〜P.63〜
"論語"では上記の通り、指導者が欲深く搾取などをしなければ、盗みを奨励したとしても誰もしないだろう、と説かれており、何というか「ほんわかとした善意」にあふれる。徳の高い人や行動には、自ずと徳の高い人や行動が後からついてくるというのは"論語"全体のトーンのように思う。
それに対して"孫子"では、
にはじまり、自分のより優位な情勢に持ち込むべく、如何に相手をだますか、如何に不意をうつか、如何に相手の弱みをつくか、という施策がこれでもかこれでもかとばかりに紹介されている。判断を誤れば死が待っている戦場で如何に生き抜くかという"孫子"に記載されている知恵は、現代の企業活動への応用性は非常に高い。
「彼を知り己を知れば百戦して殆うからず」は最もポピュラーな"孫子"言葉であり、学の無い私でも知っているが、それ以外にも短いながらも切れ味のするどいPhraseに溢れる。
敵より先に戦場におもむいて相手を迎え撃てば、余裕をもって戦うことができる。逆に、敵よりおくれて戦場に到着すれば、苦しい戦いをしいられる。それ故、戦上手は、相手の作戦行動に乗らず、逆に相手をこちらの作戦行動に乗せようとする。
孫子曰く、およそ先に戦地に処りて敵を待つ者は佚し、後れて戦地に処りて戦いに趨く者は労す。 故に善く戦う者は、人を致して人に致されず。
『孫子の兵法』 〜虚実篇 P.97、98〜
中でも「人を致して人に致されず」というのは簡潔ながらも含蓄に溢れる。要するに主導権を確保し、相手の選択肢を制限し、こちらの選択肢を増やすということ。当たり前と言えば当たり前のことであるが、わが身を振り返ると主導権の確保に対して驚くほど注意を払っていないことに気付く。
また、"孫子"の良いところは原則論に終始せず、原則を貫く上での要諦もきちんと記されていることだと思う。例えば、主導権を確保するためにどうすればよいかについては下記のような施策があげられている。
- 守らざる所を攻める
敵が救援軍を送れないところに進撃し、敵の思いもよらぬ方向に撃って出る。
- 虚を衝く
進撃するときは、敵の虚をつくことだ。そうすれば敵は防ぎきれない。退却するときは、迅速にしりぞくことだ。そうすれば敵は追撃しきれない。
- 十をもって一を攻める
こちらからは、敵の動きは手にとるようにわかるが、敵はこちらの動きを察知できない。これなら、味方の力は集中し、敵の力を分散させることができる。
- 戦いの地・戦いの日を知らざれば・・・
戦うべき場所・戦うべき日時を予測できるならば、たとえ千里も先に遠征したとしても、戦いの主導権をにぎることができる。
- 兵を形するの極は無形に至る
戦争態勢の真髄は、敵にこちらの動きを察知させない状態−つまる「無形」にある。こちらの態勢が無形であれば、敵側の間者が陣中深く潜入したところで、何もさぐり出すことはできないし、敵の軍師がいかに智謀にたけていても、攻め破ることができない。
- 実を避けて虚を撃つ
戦争態勢は水の流れのようであらねばならない。水は高いところを避けて低いところに流れて行くが、戦争も充実した敵を避けて相手の手薄をついていくべきだ。
"論語"を読んだあともそうだったが、古典というのは自分の実力によってそこから得るものが変わるものであるため、何度も読まなければならないし、そこにかかれる本質をとらえるためには一冊の解説書だけではなく、複数読まなければならない。読みっぱなしにするのではなく、読み込むことによって自分の中に刻んでいきたい。