Thoughts and Notes from CA

アメリカ西海岸の片隅から、所々の雑感、日々のあれこれ、読んだ本の感想を綴るブログ。

クラウドっていうのは、要するに「あちら側」のことではないのか

O'Reillyが"Web 2.0 and Cloud Computing"というエントリーでクラウド・コンピューティングを3つのカテゴリーにわけて定義をしている。色々定義が錯綜しているクラウド・コンピューティング。現時点のカテゴリーわけとしてはかなりすっきりしておりわかりやすいので紹介したい*1

1. Utility computing.
Amazon's success in providing virtual machine instances, storage, and computation at pay-as-you-go utility pricing was the breakthrough in this category, and now everyone wants to play. Developers, not end-users, are the target of this kind of cloud computing.
アマゾンは従量課金型のユーティリティモデルで、仮想マシンインスタンス、ストレージ、計算処理能力を提供して成功しているが、それがこの領域での代表的な成功例であり、現在誰もが参入したいと考えている。エンドユーザではなく、開発者がこの手のクラウド・コンピューティングのターゲット層だ。

Amazon EC2やS3なしにクラウド・コンピューティングは語れない。「ユーティリティ・コンピューティング=クラウド・コンピューティング」という定義をたまに目にするが、ユーティリティ・コンピューティングはクラウド・コンピューティングの1つの種類であるというO'Reillyの定義のほうが私にはすっきりする。従量課金型の計算処理能力やストレージの提供について語る時は、クラウドではなく、ユーティリティという言葉をクリアに使うべきと思う。
尚、O'Reillyはユーティリティのターゲットは開発者と言っているが、これはネットワーク効果が一番重要という自説にとらわれるあまり、本質を見失っている。ハードウェアのターゲットが開発者かと言えばそうでないように、ユーティリティのターゲットも開発者ではない。On Demandの計算処理能力を調達したいというエンドユーザの課題解決がまずありきということを忘れてはならない。

2.Platform as a Service.
One step up from pure utility computing are platforms like Google AppEngine and Salesforce's force.com, which hide machine instances behind higher-level APIs. Porting an application from one of these platforms to another is more like porting from Mac to Windows than from one Linux distribution to another.
純粋なユーティリティ・コンピューティングからもう一段ステップアップしたGoogle AppEngineやSalesforceのforce.comのことで、これらは仮想マシンインスタンスは見えないようにし、よりハイレベルなAPIを提供している。アプリケーションをあるプラットフォームから別のものに乗り換えるのは、あるLinuxディストリビューションから別のものに乗り換えるというより、マックからウィンドウズに乗り換えるという感じだ。

ユーティリティでは、電力供給のように計算処理能力を剥き身で提供するが、PaaSでは開発環境と共に構築した機能の実行環境も提供される。プラットフォームとは「"何か"ではなく、"何かをするための何か"」だが、Google AppEngineやforce.comは「アプリケーションを構築し、それを実行するための何か」をサービスとしてOn Demandに提供するととらえることができる。後段のマック、ウィンドウズ云々という議論は私にはよく意味がわからないが、このレイヤーのサービスの存在することがコンピューティングと電力の違いであり、クラウドの可能性の幅をうかがわせる。

3.Cloud-based end-user applications.
Any web application is a cloud application in the sense that it resides in the cloud. Google, Amazon, Facebook, twitter, flickr, and virtually every other Web 2.0 application is a cloud application in this sense. However, it seems to me that people use the term "cloud" more specifically in describing web applications that were formerly delivered locally on a PC, like spreadsheets, word processing, databases, and even email.
クラウド側に存在するという点で、全てのウェブアプリケーションはクラウド・アプリケーションと言える。GoogleAmazonFacebooktwitterflickrなど、実質的に全てのWeb 2.0アプリケーションはクラウド・アプリケーションと言える。ただ、スプレッドシートワープロソフトやデータベースやメールのようにかつてローカルPCにあったがウェブに移行されたアプリケーションを話すときに、人々はスペシフィックにクラウドという言葉を使うように思う。

GmailMixiAmazonまで広げるとクラウド・コンピューティングの対象が広くなりすぎ、私としてはよくわからなくなってしまうのだが、ウェブ・アプリケーションのことをクラウドと言う人がいるのでまぁ仕方ない。また、企業レベルでは確かにユーティリティやPaaSの恩恵を受けることができるが、個人の生活を改善し、より豊かにするのは、間違いなく"Cloud-based end-user applications"であり、このレイヤーが世の中に最も大きな影響を及ぼすことに間違いはない。


上記のように、クラウド・コンピューティングを幅広くとらえてみると、ある言葉が私の頭の中にうかんでくる。

ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる (ちくま新書)

ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる (ちくま新書)

ネットの「あちら側」とは、インターネット空間に浮かぶ巨大な情報発電所とも言うべきバーチャルな世界である。いったんその巨大設備たる情報発電所に付加価値創造のシステムを作りこめば、ネットを介して、均質なサービスをグローバルに提供できる。
ウェブ進化論』 〜第二章 P.57〜

要するに、クラウドっていうのは、「あちら側」のことではないだろうか。「あちら側」という言葉からは、ユーティリティ・コンピューティングやPaaSのようなここ2〜3年で大分形になってきたサービスが想起されないが、クラウド・コンピューティングっていうのはインターネット空間に浮かぶ巨大な情報発電所とも言うべきバーチャルな世界に作りこんだ付加価値創造システムの総称と定義するとすっきりする。

*1:このエントリーは"What Tim O'Reilly gets wrong about the cloud"というNich Carrのエントリーとあわせて読むと最高に面白いのだが、この紹介は別の機会としたい。id:yomoyomoさんの解説が近々なされると思うがそれも楽しみ。

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