Thoughts and Notes from CA

アメリカ西海岸の片隅から、所々の雑感、日々のあれこれ、読んだ本の感想を綴るブログ。

「悪の帝国」にならないためのGoogleの巧妙な作戦

id:yomoyomoさんの”MicrosoftからGoogleに受け継がれる「悪の帝国」の座"というエントリーを読み、"Relax Bill Gates; It's Google's Turn as the Villain (ビル、リラックスしていいよ、悪役はGoogleの番だから)”というNYTの記事を思い出した。
Googleの「悪の帝国」化に対する注意喚起がこの記事の骨子なのだが、この記事が書かれたのはなんと3年前(『ウェブ進化論』のでる半年前)。未だに「Googleってなにがすごいの」という記事をみかける日本の紙媒体とは大違いである。
記事では、高給で優秀なエンジニアをがしがし囲い込みながら、多くのウェブサービスを開発し、インターネットの世界で覇権を築こうと邁進するGoogleの姿を、デスクトップの世界で覇権を築いたMicrosoftとと重ね併せ、警戒を促していた。

"When I meet with venture capitalists, or if I'm engaged in a conversation about going into partnership with someone, inevitably the question is, 'Why couldn't Google do what you're doing?' " ...
"The answer is, 'They could, and they're probably thinking about it, but they can't do everything and do it well,' " Mr. Donato said. "Or at least I'm hoping they can't."
我々起業家がVCに会ったり、どこかの企業と提携をしようとすると、「君がやろうとしていることは、Googleができないことなんですか?」と必ず聞かれる。そう質問されると「Googleはできると思うし、多分やろうと考えているかもしれない、だけどGoogleだって全てのことをうまくできるわけではない」とか、「まぁ、少なくともGoogleができなことを望んではいます」と答えるしかなくなる。

記事中でシリコンバレーのとある起業家の上記のような苦悩が紹介されており、なかなか涙ぐましい。土俵に登ってきた相手を叩きつぶすというのがMicrosoftの流儀であったが、起業前に芽をつんでしまって土俵にすら登らせないというのがGoogleの流儀とみることもできる。競合相手を叩きつぶすという点ではMicrosoftより徹底しているが、公然で叩きつぶすわけではないのでイメージはそれ程悪くない。VCの部屋で討ち死にした起業家も含めれば、Googleにつぶされた会社の方がMicrosoftにつぶされた会社より実は多いのではないだろうか。

ここでカーは書きます。「Google の有利さは、ウェブベースの Office でマイクロソフトに先行しているだけではない。それだけならマイクロソフトも直に追いつける。Google の一番の有利さは、Googleマイクロソフトでないことだ――」。

失礼ながら、ワタシはここで爆笑してしまったのですが、要は Google の提携戦略は、既存の IT ベンダにとって、目をつけられれば存亡の危機になりかねかったマイクロソフトの攻撃的なやり方とは違うということです。

まだMicrosoftという「悪の帝国」にしたてあげられる対象がいるという点で、確かにGoogleは有利である。ただ、Googleの本当の有利だった点は「悪の帝国」キャラに陥ってしまったMicrosoftの失敗から学ぶことができたことなのではないだろうか。覇権を築き、多くの起業家の芽を摘み、シリコンバレーのエンジニアの人件費の高騰をあおりながらも、入念に、巧妙に「Google<>悪の帝国」イメージ戦略をうつことの重要性を早期に知覚していたこと、これもGoogleの競争優位を作った一因とみてもよいだろう。

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