Thoughts and Notes from CA

アメリカ西海岸の片隅から、所々の雑感、日々のあれこれ、読んだ本の感想を綴るブログ。

Yahoo!買収断念考 Ballmerの選んだ「土俵」のはなし

MicrosoftYahoo!の買収を断念した。3ヶ月でその実現可能性を見極め、迅速に意志決定を下したBallmerのその経営者としての「基礎体力」の高さにまず驚いた。買収に向けての用意周到さ、株主と世論に対し定量的に企業価値をコミットメントするその姿勢、「本当に実現するか?」と思うところまでもっていきながらも、それに引きずられず、引き際をきちんと見極め、撤退を表明するその決定力と迅速性、どれをとっても超一流。一人のビジネス・パーソンとして、その能力には素直に舌をまく。競争の熾烈なIT業界において嫌われながらもトップに君臨してきたのは伊達ではない。


一方で、「基礎体力」は超一流であるが、徹頭徹尾株主価値にフォーカスするその姿勢をみるに「応用力」には正直若干の疑問を覚える

「今もわたしはMicrosoftの提案が、Yahooの株価を正当に評価する唯一の選択肢だったと信じている。YahooとYahoo株主はわれわれと合意しなかったことで、非常に大きなチャンスを逃した。しかし、合意に至らなかったことは明らかだ」

BallmerにとってYahoo!の経営陣を完膚なきまでに叩きのめすには、「株主価値という土俵」が最良の場所であったことは間違いない。長年戦い続けた得意な領域であり、戦いを有利にするための潤沢な資金もある。Yahoo!経営陣がMicrosoftの提示価格以上の株価を実現できると思っている人は非常に少なく、現在のYahoo!の株価はそれを実際に証明している。そういう点では「株主価値という土俵」ではBallmerは圧勝をおさめることができた。


ただ、Yahoo!買収という目的を実現する上で、「株主価値という土俵」が適切だったかを考えるに、答えはNoだ。確実にYahoo!をものにするためには、Microsoft「広告主、そしてユーザの支持という土俵」で戦わなければならなかった。安価で効果の高い広告プラットフォームを求める広告主や実際にウェブサービスを利用するユーザがこの世紀の統合を諸手をあげて指示すれば、Yahoo!とて強行に抵抗することはできなかったはずだ。


そこに気付かずやらなかったのか、わかってはいるができなかったのかはわからない。ただ、Ballmerは確実に勝てる土俵を選んだものの、目的遂行のためにはそこは適切な土俵ではなかったことは結果が証明をしている


「短期的な株価上昇や収益は注意を払わないので、それが嫌な人は株を買わないで欲しい」と公言するGoogleとは対極のアプローチをとったものの、結果としてインターネットの業界で成功するには、株主価値にだけフォーカスしてはいけないということを奇しくもBallmer自身が証明してしまった、それが今回の買収劇の私なりのまとめである。

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