Thoughts and Notes from CA

アメリカ西海岸の片隅から、所々の雑感、日々のあれこれ、読んだ本の感想を綴るブログ。

生命の真理を追求するプロフェッショナルに学ぶ

生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)

生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)

何かを定義するとき、属性を挙げて対象を記述することは比較的たやすい。しかし、対象の本質を明示的に記述することはまったくたやすいことではない。
『生物と無生物のあいだ』 〜プロローグ P.3、4〜

生物学者福岡伸一のベストセラー『生物と無生物のあいだ』を読んだ。本書は、物事の本質をとらえ、言葉で定義することの難しさを、上記のように表現することからスタートし、「生命とは何か」という簡潔ながらも深遠なテーマにせまっていく。


本書のメインのテーマである分子生物学の知識が一切ない人に対しても、アナロジーを用いながら極めてわかりやすく、なおかつ読み物として飽きさせることのないよう緩急が織りまぜられながられ語られており、文字どおり本に引き込まれて一気に読了してしまった。
「文系スーツ」である私は、「生命とは何か」というテーマにふれてもそれだけでは知的好奇心がくすぐられないが、一度本書を読み始めると絶えず刺激される知的好奇心に本を閉じることができなくなってしまう。ごくごく当たり前のことであるが、「文系スーツ」である前に、自分が「生命体」であることに、これは起因するのだろう。


また、「文系スーツ」という立場からも、物事の真理せまることのプロフェッショナルである筆者から学ぶことは多い。繰り返しの引用となってしまうが、

何かを定義するとき、属性を挙げて対象を記述することは比較的たやすい。しかし、対象の本質を明示的に記述することはまったくたやすいことではない。
『生物と無生物のあいだ』 〜プロローグ P.3、4〜

というのは、日常的な仕事のシーンで、常に思い返すべき重要なテーゼである。例えば、自社の経営にCRMをとりいれようとした時、「顧客の自社との過去の取引履歴を管理する」、とか「顧客の嗜好を把握し、マーケティングに活かす」などの属性を挙げることは非常にたやすいが、「そもそもCRMとは何ぞや」、「そもそも自社にとっての顧客情報とは何なのか」ということを本質的、かつ明示的に表現することは非常に難しい。が、その小難しい議論を飛ばしているが故に、システムは導入したが、うまく機能しないということが往々にして起こるのだろう。

少しわきにそれたが、

  • 仮説と検証を繰り返すというアプローチが如何に重要なことであるのか
  • 自分のたてた仮説に懐疑的であり、事実を謙虚に重んじる姿勢が如何に重要なことであるのか
  • 偶然の直観やひらめきではなく、現場で事実に常に触れることが、真理に到達する上で如何に重要なことであるのか

などの、「MBAなんとかかんとか」みたいな仕事術本にお決まりのように書かれていることも、本書を読むことによって、その重要性がよりリアルに、そして深い納得感をもって理解することができる。読み物としても本書はお薦めであるが、分子生物学者という生命の真理を追求するプロフェッショナルの技術にふれる最良の機会という点でも非常にお薦め。「仮説と検証を繰り返す」なんてことはよく聞くが、今ひとつ腹におちないという方は是非本書を読むことをお薦めする。


ちなみに、本書を手にとった契機は”読売新聞書評欄連載で選び評した12冊の本”という梅田さんのエントリー。偏らず色々な種類の本を読むことの重要性をあらためて感じさせられた。次は『アメリカ素描』でも読むか。

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