Thoughts and Notes from CA

アメリカ西海岸の片隅から、所々の雑感、日々のあれこれ、読んだ本の感想を綴るブログ。

はてなの京都移転とウェブサービス事業の評価指標

はてなの京都移転が方々で議論をよんでいる模様。トヨタ自動車が名古屋から東京に移転するというのならそれなりに話題になるのはわかるが、とあるベンチャー企業の引越しがこんなに色々賛否をよんでいることはなかなか面白いことだと思う。
中でも私が面白いと思うのは、今回の

今後の 開発拠点をどこに置いて事業の発展を目指すかの検討を行ってきました。京都、 東京、シリコンバレーの各候補の中から、今後のはてなの長期的な成長を考え た上で、ものづくりに集中するためには創業の地である京都が最適であると考 えました。

という発表の説明が十分か、不十分か、論理的か、非論理か、納得感があるか、ないかという点にユーザの議論が集中している点。一はてなユーザである私の関心は、移転に伴いサービスが停止することがあるか、とか今まで通り既存のサービスが提供されるのかという点につきるが、ディープなはてなユーザはより深く感情移入をしているのがみてとれる。「京都が最適ということへの是非」や「移転に伴い一部社員が辞めたことへの是非」などユーザとしての利便性という次元をはるかに越えたところに関心がいき、深い納得感を求めているのはなかなか面白い。


一般的に公開企業は広く世の中から投資を募り事業を運営しているため、小さな個人投資家も含めて、会社の意志決定が投資家の利益を実現する上で適切かどうかを説明する責任を担う。ただ、一口に投資家、株主と言っても、短期的な利益を追いかける人もいれば、中長期の利益を追いかける人もいる。そういった異なる興味をもった不特定多数の株主とのコミュニケーション、説明責任の遂行にはそれなりに労力を要するはてなはご存じの通り、金融機関に多くの出資をしてもらったり、上場して幅広い株主から出資をしてもらっているわけではないので、この種の煩わしい説明責任から解放さている。そして、一般的には受け入れられがたい施策もそれゆえにチャレンジはしやすい。


だが、今回の本社移転発表に伴う反応を見ていると、別の煩わしい説明責任をおっていることがわかる。すなわち、はてなロイヤルティの高いディープなユーザコミュニティに対する説明責任だ。新サービスを使い倒してくれるコアユーザがいたり、今回の移転に対して手放しにPositiveなシャワーを浴びせてくれる支援層がいるというのは、はてなの強みであるが、そういうコアユーザに対しては、私のようなあっさりユーザと比較して相当粘着質あふれる説明責任が発生し、それを放棄するとそれらのユーザのロイヤルティはうすれてしまう(投資家が株式を売却してしまうかのように)。


そうこう考えると、ウェブサービス提供という事業の評価指標としては、サービス利用者の数とロイヤルティの高いディープなユーザコミュニティの規模というのは明確にわけるべきであることが明らかになってくる。サービスの利用者をより拡大するために質の高いサービスを開発するということと並行して、ロイヤルティの高いユーザを増やし、強いユーザコミュニティを形成するための施策も実施する必要がある。そういう点では" 京都本社移転について思うこと"のように取締役の本音トークをぶちまけるコミュニケーションというのはいかにもはてならしいと思うし、本音の本音も交えた心をつくしたコミュニケーションというのはかなり汎用的な施策のひとつなんじゃないかと思う。

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