Thoughts and Notes from CA

アメリカ西海岸の片隅から、所々の雑感、日々のあれこれ、読んだ本の感想を綴るブログ。

ビルゲイツの引退と一つの時代の終焉

Nicholas Carrが自身のブログの"Exit Gates"というエントリーで、FINANCIAL TIMESに掲載した自分の長文のコラムを紹介している。

When the founder of Microsoft retires this year, it will not only mark the close of a remarkable business career. It will signal the end of an era in computing.
マイクロソフトの創業者が今年退任する。これは、ある特筆に値するビジネスキャリアの終わりというよりも、コンピュータの一つの時代の終焉をあらわす。

というくだりから始まり、どんな時代が今終わろうとしており、どういう時代がこれからやってくるのかということが熱っぽく語られている。要点は下記の通り。

  • 2005年にBill GatesがMS社内に発信した”Internet Software Services”というメモは、ソフトウェアの提供モデルが、デスクトップPC向けのソフトウェアパッケージの販売というモデルからインターネットを介したサービス提供というモデルに転換するという時代の流れを社内に訴え、注意を換気したものである
  • "Business Computing”をサービスとして提供することは、Salesforce.comやAmazon Web Serviceが既に着手をしていることで、従来のモデルでハードウェアやソフトウェアを販売するIT企業にとってはこの流れは大変な脅威である
  • 19世紀末まで製造業は、自ら発電機を工場に設置し、自身でメンテナンスと稼働をさせることにより、使用する電力を自分達で発電しなければならなかったが、電力会社が発電所を作り、電力を供給するインフラを整備することにより、製造業は必要なだけの電力をより安価に調達できるようになった
  • 各企業が自社でコンピュータを購入し、IT部門がそれをメンテナンスし、自社内にそれを供給しているという状態は、19世紀の工場における自家発電モデルに等しく、そういう古いやり方は早晩に終焉をむかえ、"Business Computing”のためのITサービスも、ユーティリティモデルに移行することは必然的な流れである
  • そういった流れを受け、企業に巨大ERPパッケージを販売してきたSAPやOracleはウェブベースのソフトウェアサービスとしての提供を開始し、各企業に巨大コンピュータを販売してきたSunやHPは重量課金制で"Computing Power”を供給することをはじめ、既に時代は動きはじめている
  • この流れは1970年代のデスクトップPCの発明以来の大変化であり、デスクトップPCの覇者であるMSの経営から今年の夏にBill Gatsが退陣することは、ひとつの時代の終焉の象徴的な出来事ということができる

ユーティリティ・コンピューティングというNich Carrのある意味ライフワークが前面に押し出されており、上記要約したコラムの内容はおそらく彼の最近の著書である"Big Switch”の骨子にもなっていると推察される。
話の内容はいつも通りの話だが、ブログで断片的に書かれている内容がまとめられている点、また日本語訳がされていない"Big Switch”のおそらく要約となっている点で、Nich Carrの「表の顔」入門といえるようなエントリーなので興味のある方は是非ご一読のほどを。
ちなみに、「裏の顔」は"The amorality of Web 2.0”に代表される辛口トーク。まぁ、よく彼のエントリーを読んでいる人にとっては、「辛口トークの方が表の顔だろう!」という意見が多いだろうが・・・。

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