Thoughts and Notes from CA

アメリカ西海岸の片隅から、所々の雑感、日々のあれこれ、読んだ本の感想を綴るブログ。

企業の中と外の線引き

『WIKINOMICS』でRonald Coaseの「取引コスト」の話がでてきて非常に興味深かった。

All this leads to what we and our colleagues call "Coase's Law":A firm will tend to expand until the costs of organizing an extra transaction within the firm become equal to the costs of carrying out the same transaction on the open market. As long as it is cheaper to perform a transaction inside your firm, keep it there. But if it is cheaper to go to the marketplace, do not try to do it internally.

上記で述べたような全てのことは我々が「コースの法則」と呼ぶものにつながっていく。「コースの法則」とは、追加で発生する某かの業務を、企業は内部で実施するコストと外部の市場に委託するコストが等しくなるところまで内部に取り込むということを指す。企業内部で実施するコストの方が安ければ、その業務は内部で実施するが、外部の市場に委託するほうが安い業務については、内部に取り込まず、社外にお願いをすることになる。
『WIKINOMICS』 〜THE PERFECT STORM P.56〜

Coaseの議論の出発点は、「独立した個人が都度都度会社と短期の契約を結べば、個人は働きたい時にフレキシブルに働け、企業は必要な量の労働力を安価かつフレキシブルに調達できるのに、多くの人間が会社と長期間の雇用契約なるものを結び、企業組織というものを形成し、互いに拘束しあっているのは何故か?」というところにある。
Coaseのそれに対する答えは、互いにフレキシブルというのは嬉しいけれども、

  • 個人の視点でみれば、職を探し、会社の評判を調べ、実際に契約を結び、その会社に慣れるなどの、
  • 企業の視点でみれば、人を募集し、能力を評価し、報酬を交渉し、会社の基礎的な研修をするなどの

「取引コスト」が都度都度発生し、仕事が発生するたびにそんなことをしていると効率的ではない、という点に集約される。


例えば、コピーとり程度の仕事であれば、それほど仕事を委託・受託するのに「取引コスト」はかからないので、現在でも人材派遣会社を通じてかなり流動化しているが、経営企画部長のような仕事であれば委託・受託に相当の「取引コスト」がかかるので、流動化するのは非常に困難だ。


で、「コースの法則」をうけての『WIKINOMICS』の論点は、インターネットを核とした最近の技術革新がこの「取引コスト」を大幅にさげているため、古い考え方で仕切りをしいた企業の外部と内部をもう一度見直す必要があるのではないかという点。単純なテレセールスなどはコールセンターに受託してしまい、営業という機能の一部を外部に委託してしまうというのは最近の流行であるが、外部に対して積極的に内部の情報を公開し、外部のリソースとの間で生じる「取引コスト」を低減することで、今までの常識では考えられないような内部と外部の線引きを可能にすることが戦略的に今後の企業経営において非常に重要であるというのが本書の主張。


上記の視点は確かに重要であるが、それが全てを凌駕するほど正しく、全ての企業にそれはあてはまるという若干極端な方向に走りがちなのが本書の欠点ではあるが、重要な視点であることは間違いない。実務担当者の視点で言えば、それは言うは易し行なうは難しなのだが、実現可能で行うのが難いことをやり抜くことこそ重要なので、積極的にそういう機会を見つけていきたい。

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