Thoughts and Notes from CA

アメリカ西海岸の片隅から、所々の雑感、日々のあれこれ、読んだ本の感想を綴るブログ。

日本の雇用規制と下請け丸投構造

重層的な下請け構造だって情報サービス産業の悪弊ではなく日露戦争後から広範に観察される産業構造で我が国の職業倫理や雇用規制に深く根ざしている。・・・<中略>
多くのユーザー企業が要件定義から丸投げするのは、要件定義できる人材を内部で抱えておらず、中途で採ることも難しいからだ。多くのSIベンダが重層的な下請け構造に頼るのは、案件には繁閑期があるのに雇った従業員は切れないからだ。

というエントリーに触発され、日本の雇用規制と下請け丸投構造について最近思っていることが書いてみたい。


企業の正社員と派遣社員を比較するにもらっている給料、役割から考えて明らかに正社員のほうが、仕事ができてしかるべきなのに、その逆転現象がおきるということを私は嫌というほど見てきた。業務改革プロジェクトなどで、お客様先に行って現行業務についてインタビューをしても正社員のおじさんからはまともな回答をえられず、急遽インタビューに呼び出された派遣社員の方が的確に回答するというのはよくあるシーンだ。


社内で作成されたお客様向けの提案書と価格をみたところ、提案内容に対してどうみても高い見積金額が書いてある。競合他社より5〜6割、ひどい時は倍以上違うこともよくある。もともと自社の単価は競合と比べても高いが、それにしても余りに高いので詳細をみてみると、プロジェクトの殆どの作業を外に投げ、自分達はプロジェクト管理、及び品質管理をするという構成になっている。下請けに丸投げしてマージンをとっているだけに等しいのだから高いわけだ。


正社員と非正社員の流動化を阻む日本の解雇制限がこういった下請け丸投げ構造を助長しているのは想像に難くない。

厚労省の考える労働者保護とは、いま雇われている労働者の保護にすぎず、もっとも弱い立場にいる失業者は視野に入っていない。問題は非正規社員を正社員に「登用」することではなく、逆に正社員の解雇制限を弱め、労働市場を流動化して、衰退産業から成長産業への人的資源の再配分を加速することだ。

池田さんが上記の通り指摘されているが、大企業の正社員が厚労省の労働者保護の恩恵に最もあずかっており、大した仕事なんてしなくても、それなりの給与と雇用が保障されている。貢献度の極めて低い社員を解雇しようとしても、日本の法体系では非常に困難なので、そのしわは大企業の一部の一流社員と下請け企業・派遣社員によっていくことになる。
大企業の正社員と異なり、安定収入と雇用が保障されていない下請け企業や派遣社員は、競争環境にさらされているので、丸投げされた仕事に対して成果を出す強いプレッシャーの下、成果をだし、マージンをとられた報酬を受け取るというのが現在の構造。下請け丸投げ型の仕事をする人を排除する仕組が十分でないのは本当に困ったことだと思う。ただ、矛先がその丸投げをする上流にいる人に向かうことがあるが、これはそういう個人の資質の問題ではなく、日本という社会が抱えている構造的な問題だと考える。


でも、そんな構造的な問題に対して、情報サービス産業が3Kだ7Kたと嘆いているだけでは何にもならない。マクロな視点でみれば確かに構造的な問題を抱えているが、ミクロの視点でみれば日本というのは非常に自由が利いて、自分が働きやすい環境を自分で選べる国だと私は思う。エンジニアにとってGoogleが理想の環境ならGoogleに入社すればよいし、Googleに入りたいけど能力不足で入れない人は、自分の能力を磨けばよいだけの話だ。ついてきやすい、ついてきにくい、という多少の違いは確かにあるが、やりがいのある仕事や働きやすい労働環境や報酬というのは、自分の実力に自然とついてくるものだ。

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